JAXA研究開発部門

小型実証衛星2号機(RAISE-2)開発

プロジェクトの成功を支え、日本の宇宙産業に貢献したい

三菱電機株式会社

鎌倉製作所 衛星情報システム部 技術第一課 専任 神谷 修平

2021年度に打ち上げられる革新的衛星技術実証2号機では、実証テーマのうち6つの部品とコンポーネントの実証を行うため100kg級の小型衛星「小型実証衛星2号機(RAISE-2)」を開発している。同機の開発を担当しているのは、これまで数多くの大型衛星を生み出してきた三菱電機株式会社。同社の神谷修平氏に、大型衛星とは違った小型衛星の開発の難しさ、開発状況や今後の展望などをお聞きした。

- これまで三菱電機様では大型衛星の開発に携わってこられたと思いますが、小型衛星の開発に参入された背景を教えてください。

小型衛星と大型衛星では得意な分野が違います。

大型衛星は電力・通信の容量や質量、リソースを十分確保したうえで、高機能化しています。例えば観測衛星の例でいうと、地上の画像を撮ろうとすれば非常に高解像度のものが得られるといったメリットがありますが、その分一機の値段が高く、どんどん打上げるわけにはいきません。また観測頻度がどうしても粗くなってしまいます。

一方、小型衛星のメリットは、たくさん打上げることによって、時間的に短い間隔で画像を撮ることができるという点だと思います。

多くの小型衛星を協調して動作させる「衛星コンステレーション」と大型衛星の両方を持つことで抜け目のない網羅的なシステムになります。

昨今、このようなコンステレーションをはじめとして、小型衛星を求めるユーザが増えてきていると感じています。従来の大型・中型衛星のみならず、小型衛星を当社の製品ラインアップに加えることで、ユーザのあらゆるニーズに対応できるようになると考えたことが、当社の小型衛星開発参入の背景です。

- 今回100kg級の衛星になりますが、大型衛星との違いはどういったところにあるのでしょうか。

いちばんの違いはリソースです。

わかりやすいものでいうと電力と質量。質量は100kgという制約があるので、あまり重たい機器を載せられません。性能アップすると電力や質量も上がることが多いので、小型衛星ではある程度機能や性能を絞らなければなりません。また、電力や質量と同様に、小型衛星はコストやスケジュールの自由度もあまりありません。

その厳しいリソースの中でやっていくのが、大型衛星と違うところだと思います。我々が大型衛星を設計していくときは、ある程度余裕を持って行うのですが、小型衛星は余裕をすごく取りづらい。切り詰めていかないと性能が達成できないということがあります。

小型衛星のコストを切り詰めていこうとすると、宇宙用の部品ではない民生品を使うことになり、信頼性の面での不安や、試験実績の不足、ロット管理がきちんとされていないこと、などといった面がどうしても出てきてしまいます。その中でもいかにして品質や信頼性を向上させていくか、ということがいちばんの課題です。これについては、これまで我々が中型・大型衛星開発で培った知見を活用するとともに、JAXAからもアドバイスを頂きながら進めており、日々勉強させて頂いています。

また、もう1点、大型衛星と小型衛星で大きく違う点を挙げるとすると熱制御だと思います。大型衛星より小型衛星のほうが熱制御がシビアです。大型衛星では、熱制御のリソースを確保し、衛星が熱くなったときに放熱する側を広く取り、日陰に入って温度が下がったときにヒーターを使って温度を上げることで熱を制御することが可能です。

一方、小型衛星は電力やスペースの制約が厳しく、ヒーター電力を上げられなかったり、ある機器が発熱すると他のところに影響が出たりします。いろいろなところが関連し合ってしまってあまり切り分けられないというのが小型衛星の難しさです。

このように熱・電力・発熱・機器配置などをまとめて考えなければいけないというのが、小型衛星の大変なところだと考えています。

- 今回「小型実証衛星2号機(RAISE-2)」には、6つの実証テーマを載せることになります。苦労や工夫している点等ありましたら教えてください。

後でなるべく苦労がないように最初の段階からいろいろJAXAや各実証テーマの方々と相談して開発を進めています。

中でも私が気をつけるようにしたところは「あまり宇宙特有の作り方にしない」ということです。インタフェースにしても民間でも使われているようなものにしておいて、ある程度自由度を持たせることを考えました。

ただし、あまり自由度を持たせてしまうと、実証テーマ機器が6個もあるためシステムが複雑になってしまいますから、なるべく単純なシステムにすることと、使いやすいシステムにすることという両面のバランスを取りながら工夫しています。

- 三菱電機では今回若手メンバーが中心的にプロジェクトに入られていると聞いています。本衛星にかける思いをお聞かせください。

「小型実証衛星2号機(RAISE-2)」は、プロジェクト発足当初から若手が中心になって開発している衛星です。

中型・大型衛星の設計では、当社がこれまで作りあげてきた実績に則り、まず流用設計から入ります。そのほうが全体的に信頼性も品質も上がるし、開発期間も短縮できるからです。

一方、この「小型実証衛星2号機(RAISE-2)」に関してはほとんど新規で作りあげていっているので、若手からすると初めての経験で、かなり「自分で作っている」という感覚があると思います。

成功させたいという思いは皆強く持っています。私自身、衛星を一からシステム設計するというのは初めてなので、非常に勉強になっていますし、若手メンバーの成長にも繋がっていると思います。

- 本衛星の開発を踏まえた、御社の今後の事業展開を教えてください。

明確な目標としてあるのは、衛星コンステレーションです。

衛星コンステレーションは、高頻度観測、即時性という面で非常に強く、機数を増やしていけば観測頻度をどんどん上げられます。「ここを撮りたい」というときに衛星に指令すればすぐに撮れるというメリットがあるので、トータルの観測ソリューションとして大型衛星と小型衛星の画像を両方利用するなど、あるニーズが発生したとき、それを撮る全体的なシステムを作っていくということは事業展開として十分あり得るのではないかと思っています。

また、今回開発する「小型実証衛星2号機(RAISE-2)」のノウハウを活かして、小型衛星単体としてだけでなく、コンステレーションにも供給できる小型衛星バスを開発できるのではないかと思います。大型衛星に比べればきわめて安いコスト、短納期で製造できますし、国内外のユーザから、いろいろな方面で利用していただけると期待しています。

- 今後、小型衛星で宇宙産業はどう変わっていくとお考えですか?

すでに変わりはじめていると感じています。

宇宙は今までかなり特殊で、周りから隔絶されたような分野という印象がありました。しかし、現在は打上げコストや小型衛星の値段が下がっていますし、利用サイドから見ればベンチャー企業はもちろん、エンターテインメント業界など、これまで宇宙とは関係のなかった産業も参入し、面白い時代に入っていると思います。今後もその流れは加速していくのではないかと思います。

我々メーカ側からすると、コストをドラスティックに下げるということは、宇宙分野以外の民間の設計製造プロセスや部品についての考え方を取り入れるということになると考えています。

例えば、よく「車載部品を衛星に使えないのか」という議論になりますが、安くしていくという点から、品質保証のプロセス、宇宙用の部品に関する考え方をある部分は残しつつ、取り入れていくことも必要でしょう。信頼性を担保しなくてはいけない部品にもさまざまなレベルがありますので、例えば、CPUのように重要な部品は宇宙用部品を使い、それ以外のところはコストを下げるといったバランス感覚が重要だと思います。

海外では小型衛星を車の量産に近い形で作っているという例もありますし、利用する側もメーカ側もこれまでなかった業界の融合が進んでいくのではないかと思います。

小型衛星、中型・大型衛星によって求められる変革のレベルは違えども、その流れに乗っていかないと今後宇宙業界で勝ち残っていくのは厳しいと思いますし、我々としてはさまざまな産業界の垣根を取り払っていきたいと考えています。

- 最後に抱負をお願いいたします。

まずは「小型実証衛星2号機(RAISE-2)」を、最終段階まできちんと作りあげて打上げるというのがひとつの大目標です。打上げ後、運用も実施していきますので運用も含めて完成です。

実証テーマ機器の方々にデータを提供し、システムとしての成功だけではなく、プロジェクト全体としてすべて成功させるというのがひとつの大きな抱負です。

今後、当社としては衛星コンステレーション、バス提供など新規事業を拡大していくという戦略の中、今回つくりあげた小型衛星のバスの利用を広げていって、日本の宇宙産業を盛り上げていきたいと思います。