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革新的衛星技術実証2号機 実証テーマ

小型・省電力かつ計算能力の高いマイコンボードを実証し、宇宙機への活用を目指す

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社

IoTソリューション事業部 製品1部 太田 義則


ソニーグループ株式会社

R&Dセンター Tokyo Laboratory 14 永田 政晴

小型・省電力・高性能のマイコンボード「SPRESENSE」の宇宙利用を目指すソニー。従来のコンピュータでは対応が難しい宇宙分野に挑戦する意気込みと今後の展望について、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社の太田義則氏、ソニーグループ株式会社の永田政晴氏に話を伺った。

- ご自身の研究/業務内容について教えてください。

太田  ソニーセミコンダクタソリューションズは、イメージセンサーを主力としたデバイスソリューションカンパニーです。 その中でも我々はセンシングの要となるIoT向けの低消費電力のプロセッサの技術開発並びに商品化を担っています。

今回作ったプロセッサは、その経験を活かし、高い計算能力を持ちつつ、弊社の得意とする低消費電力を両立させた異色のプロセッサです。

私は、このプロセッサを広く皆様に使っていただくためのオープンプラットフォーム「SPRESENSE(スプレッセンス)」という製品群のプロジェクトリーダーを務めています。

このほか、私は「SPRESENSE」の製品開発だけでなく、ソースコード、ハードウエア情報を一般公開して皆様に自由に使っていただくための環境づくり、一般販売に向けたビジネス推進等も広く担当しています。

今回、革新的衛星技術実証2号機で実証する「マルチコア・省電力ボードコンピュータ SPRESENSE™ SPR」で新しい進化が見られるのではないかと思っています。

永田  私はソニーグループ株式会社のR&Dセンターで研究開発を行っており、今回のSPRプロジェクトのリーダーを務めています。

私が所属している研究グループは地球環境保全に関心を持っています。近年、気候変動、生物多様性の低下など地球環境の悪化が叫ばれていますが、それに対する我々のアプローチは「不都合な事態を未然防止するためのセンシング技術の活用」です。ソニーグループ内外のさまざまな最先端技術を活用し、地球への負荷削減に向けた研究活動をしています。

その一例として、農地を確保するために森林を伐採するなど、人が意図せずに自然を破壊してしまうことを防ぐために、農地や農作物を精密にセンシングし、今発生している事象から次に何が起こるかを予兆検知し、事態の悪化を未然防止することで必要最小限の農地から効率よく安定的に収穫できる仕組みについて研究しています。

このセンシングシステムの中心となるのが「SPRESENSE」です。「SPRESENSE」は小型・低消費電力に加えて、DNN(ディープニューラルネットワーク)が使えるので、電池で動く手のひらサイズのセンシングシステムでデータ取得から、高度なデータ分析、データ分析結果を送信するところまで完結します。

「SPRESENSE」を活用してさまざまなセンシングシステムを開発することで、地球環境保護に貢献したいと考えています。

- 今回、革新的衛星技術実証2号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。

永田  近年、宇宙空間での実験や宇宙分野へのビジネス参入が身近なものになりつつあり、キューブサットのような超小型衛星をより低コストで実現することが期待されています。

今回の実証では、「SPRESENSE」とMEMS IMU(慣性計測装置)、GNSS(衛星測位システム)を組み合わせた位置推定、姿勢推定技術の検証に加え、「SPRESENSE」の特長でもある低消費電力で動作するAI処理を活用して、宇宙空間においてカメラで撮った画像を用いた画像処理を行うエッジAIの動作検証にチャレンジします。

今回の実証で「SPRESENSE」の宇宙環境に対する耐性や信頼性を確認することで、衛星だけでなくさまざまな分野で「SPRESENSE」を活用していただきたいと思っています。

太田  厳しい宇宙環境での耐性を確認することで、従来のコンピュータではなかなか対応が難しかった領域で広く活用を進めることも大きな目的のひとつです。

- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。

太田  ソニーが「SPRESENSE」の発売を開始したのは2018年の7月末でしたが、そのタイミングがちょうど革新的衛星技術実証2号機の公募の時期と重なっており、JAXAから応募してみてはどうかとお誘いを受けたのがきっかけでした。

我々は「SPRESENSE」を宇宙で使うということはまったく想定していなかったので尻込みをしていたのですが、ちょうど同じ頃、海外の小型衛星を開発している会社からも「SPRESENSE」を使えないかという問い合わせもありました。

「SPRESENSE」のシリコンプロセスFD-SOI(Fully Depleted Silicon On Insulator)は、その構造から放射線にも強いということはわかってはいたのですが、もともと低消費電力を実現するために導入したもので、その特性の優位性については気にかけていませんでした。

低消費電力と放射線耐性という特長は衛星システムのプロセッサにマッチしていることがわかり、社内で議論する内にこのプログラムにチャレンジすることは、ひょっとすると必然ではないのかと思えるようになりました。

社内では未経験の宇宙分野への挑戦に慎重な声も多数あったのですが、新しい技術分野にチャレンジしたいという社内のエンジニア、研究者の声が大きかったということと、ビジネス開拓の面でも大きなプラスになると考え、参加することになりました。

- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。

永田  それまで我々の研究グループでは宇宙に進出するという概念がなかったので、そもそも宇宙での実証機会について知る機会がありませんでした。

革新的衛星技術実証プログラムがなければ、我々が宇宙にセンシング範囲を広げるタイミングは遅れていたかもしれません。今回のプログラムを通じて衛星に関する理解がだいぶ深まりましたので、今後は、ISSからの放出なども含めた実施を検討していきたいと思っています。

- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えて下さい。

永田  民生品との大きな違いは部品選定です。

宇宙で用いられる機器には、宇宙線や原子状酸素の影響、真空状態など民生品ではあまり考慮する必要のない環境での信頼性の担保が必要とされます。

まず我々は、おおよそのシステム構成図を書いて、そこに必要となるデバイスや機材について、過去宇宙で使われたことのある部品を超小型衛星搭載民生部品データベースやJAXAから提供された材料データベースなどを使って調査しました。

データベースに登録のない部品もけっこうあり、それについてはJAXAの方々に相談させていただいたり、それでも解決できない部品に関しては個別に試験を実施したりしました。

「SPRESENSE」は宇宙環境耐性に関しては確認していなかったので、我々は独自にプロトン照射試験、熱真空試験、振動衝撃試験などこれまでやったことがないさまざまな環境試験を行い、信頼性を確認してきています。

- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。

永田  宇宙開発知識ゼロの我々に対し「人工衛星とは」という初歩的なところからわかりやすく説明していただいたり、衛星の制御や運用に関する勉強会を開いてもらったりと大変感謝しています。

今回の衛星搭載機器を開発する中でJAXAのさまざまな方をご紹介いただいておりますし、SPRを通じて宇宙科学技術連合講演会(宇科連)という学会にも参加させていただき、より多くの人脈を形成することができました。

このプログラムに参加させていただいたことで今後の弊社の宇宙開発の基盤ができあがったと思っています。

太田  宇宙関連では、デバイスの開発だけではなくサービスの開発も視野に入ってきています。これからはそういったリカーリングビジネスへ繋がる道もできてくるのではないかと思います。

我々だけではなく、中小、ベンチャー企業をはじめ、いろいろな企業が宇宙に挑戦する場をよりいっそう設けていただければと思います。

- 2号機での実証後の展望についてお聞かせください。

永田  今回の実証で「SPRESENSE」が宇宙空間でも安心して使えるということが実証できたら、ぜひ皆様にも衛星用のオンボードコンピュータとしての活用をご検討いただきたいと思います。

「SPRESENSE」は開発環境も充実しており、必要であればニューラルネットワークコンソールというツールと連携してさまざまな認識処理や推論処理を搭載することが可能です。

太田  この分野ではソニーはまだまだ後発です。しかしこれから宇宙でさまざまな経験を積んでいって「ソニーといえば宇宙」と言われるようになればと思っています。

- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。

永田  私はソニーに入社して、宇宙の仕事をするとは思っていませんでした。

宇宙に興味をお持ちの方は、現在所属している会社や研究機関が宇宙に無関係であっても、画期的なアイデアや部品、コンポーネントがあれば、ぜひこのプログラムに参加してみてはいかがでしょうか。子どもの頃の宇宙への憧れを実現できるかもしれません。

太田  宇宙は遠い出来事、という感覚でしたが、未経験でも一通りのプロセスを理解すれば誰でも宇宙ビジネスに参入できる時代になったんだな、ということを強く感じました。

宇宙ビジネスに興味を持っている会社は、こういったプログラムに参加してみて、宇宙をより身近なものにしていっていただけたらと思います。それが日本の宇宙産業の底上げにも通じますし、日本が宇宙分野で主要プレーヤになる推進力になっていくのではと思います。

» マルチコア・省電力ボードコンピュータ SPRESENSE™ SPR

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 (ソニーセミコンダクタソリューションズ)

Interview 1 1号機に関わる人々