革新的衛星技術実証2号機 実証テーマ

超小型人工衛星のマイクロISS化実現を目指して、軌道上で生物実験を行う

帝京大学 理工学部 航空宇宙工学科

河村 政昭 准教授

クラブ活動の一環として超小型衛星の開発に取り組んでいる帝京大学宇宙システム研究会。今回の実証テーマは「超小型人工衛星のマイクロISS化」。超小型衛星内にISS(国際宇宙ステーション)のような宇宙環境を利用した実験環境を再現し、生物科学実験を行う。衛星開発の目的などについて同大学理工学部航空宇宙工学科の河村政昭氏に伺った。

- ご自身の研究内容について教えてください。

スペースシャトルのような宇宙往還機や、小惑星探査機「はやぶさ」の再突入カプセルの周りの大気の流れなど大気圏再突入技術の研究をしています。大学が衛星を打ち上げ、試料を回収することはまだ実現していませんが、ゆくゆくはそういうことができるようになりたいと思い、研究に取り組んでいるところです。

- 今回、革新的衛星技術実証2号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。

今回のテーマは「超小型人工衛星のマイクロISS化」です。

現在、超小型衛星の開発が盛んですが、多くは地球観測衛星や天体観測衛星の小型版です。大型の衛星を小型化するように、ISS(国際宇宙ステーション)の小型版があってもいいのではないか。微小重力や高放射線環境などの宇宙環境を利用した実験を行うとき、まず超小型衛星で実証して成果を得てから、あらためてISSで実験を行う方が、費用対効果がいいのではないかと考えたのが応募のきっかけです。

超小型衛星なら、大学の研究室で手が出せるような金額で利用できるようになるでしょうし、ISSは一機しかありませんが、この超小型人工衛星はこれまでの50cmサイズの衛星よりもコストを大幅に下げていますので、例えば5機同時に打ち上げれば、5種類の宇宙実験ができます。

今回の実験は、ISSと同じような1気圧、最適な温度・湿度に保たれた環境を超小型人工衛星の中に作り、微小重力環境下での細胞性粘菌の挙動を観察する生命科学にチャレンジします。衛星に搭載する細胞性粘菌は、もともと過酷な環境に強いもので、地上実験では3ヵ月間眠った状態でも培養液を与えると眠りから目覚めることが確認できています。今回の実証では眠っている状態で打ち上げ、軌道上で栄養分を与えて目覚めさせるようにしています。軌道上での観察は、シャーレの横に搭載した小型カメラで行います。

「TeikyoSat-3」(2014年、H-ⅡAロケットでGPM主衛星の相乗り衛星として打ち上げられた)のときも同じような実証テーマにチャレンジしました。実験モジュールの気圧・温度などのデータは得ることができていたのですが、通信系に不具合が起こり、細胞性粘菌の画像を地上に送ることができませんでした。そこで、「TeikyoSat-3」をさらに発展させて今回の「TeikyoSat-4」を開発し、採択していただいたというわけです。

我々の衛星は工学系の「宇宙システム研究会」というクラブ活動をベースとして開発を進めています。1~4年生が開発の中心となっているのですが、大学院に進学する学生は継続して開発を行っています。クラブ活動で真剣に衛星・宇宙開発をする体験が、宇宙産業の人材育成に役立っていると思います。

さらに「TeikyoSat-4」はできる限り栃木県産を目指した衛星になっています。衛星の筐体もそうですし、できれば電子基板も県内で調達しようと、県内の企業と共同で開発を進めています。なるべく近くで開発できるような体制を取っているので、何かあったらすぐに企業に行って相談できるようになったのが、「TeikyoSat-4」の開発を加速させることに有利になったのではないかと思います。また、おかげで県民の皆さんにも応援していただいています。

- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。

革新的技術にチャレンジして国内外の宇宙開発に発展性を持たせることができるのが、このプログラムの特徴だと思います。我々も宇宙環境を利用した超小型衛星開発をモチベーションとしており、革新的な衛星開発ができればと思ったのが今回の応募の動機です。

- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。

私は、国内で衛星を打上げることで、衛星ミッション以外のさまざまなノウハウが得られ、そのノウハウを国内の大学や企業の皆さんと共有することが、我が国の宇宙産業を盛んにすることに繋がると考えています。そんなときにちょうど革新的衛星技術実証2号機の公募が出て、タイミングが重なったということがあります。

- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。

開発中には不測の事態がいくつもありました。

2021年2月13日の福島県沖の地震の影響でEFM(エンジニアリング・フライトモデル)の試験がずれ込みました。

また、コロナ禍となった影響で、当初は大学には入れませんでした。その後、大学にきちんと感染対策をした上での活動継続を認めてもらうことができましたので、コロナ禍の影響は少なかったと思っています。感染対策をとった上でプロジェクトを進められたことが、ひとつの成功例として紹介できるようになればといいと思っています。

- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。

革新的衛星技術実証グループの皆さんは経験豊富な方が多く、こちらにミスがあった際などにアドバイスをもらっています。我々のミッションを成功させるためにはどうしたらいいのかを常に考えてサポートしていただいていますので非常にありがたいと思っています。

- 革新的衛星技術実証2号機での実証後の展望についてお聞かせください。

今回は細胞性粘菌を打ち上げて宇宙空間で実験をしますが、次回は悪性腫瘍の細胞やIPS細胞等を打上げ、微小重力下で細胞分裂が加速するのか抑制されるのかを観察し、宇宙医学、宇宙薬学などに応用するためのミッションを行うことを考えています。そのためにも今回の実証を成功させて宇宙科学分野の発展に貢献したいと思います。

- 最後にJAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。

いろいろな実証テーマをもった開発チームが、革新的衛星技術実証プログラムに参加し、実証後の将来性や発展性を見据えて活動をしています。

一度宇宙実証してみたいというテーマがあれば革新的衛星技術実証プログラムに応募し、企業であれば技術力、学校であれば研究力を示すチャンスにしてみてはいかがでしょうか。チャレンジしてみると、工学的・理学的な成果だけでなく得るものがたくさんあるのではないかと思います。

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Interview 1 1号機に関わる人々