革新的衛星技術実証2号機 実証テーマ

超小型衛星の複数波長帯での赤外線画像処理技術を実証し、新たな価値を持つ情報を生み出す

三菱重工業株式会社

防衛・宇宙セグメント 宇宙事業部 技術部 システム制御設計課 衛星チーム
沼田 俊彦 上席主任
成澤 泰貴 主席技師

遠赤外線と近赤外線の2種類のカメラを搭載し、地上の経済活動等を分析して、新たなビジネスチャンス獲得を目指す超小型衛星「Z-Sat」。大手宇宙機メーカーである三菱重工が小型衛星開発にかける狙いや展望について、同社防衛・宇宙セグメント宇宙事業部の沼田俊彦氏、成澤泰貴氏に伺った。

- ご自身の研究/業務内容について教えてください。

沼田  私たちは小型衛星に関する技術分野のとりまとめを担当しています。

衛星は、地上局と通信を行う機能、電源供給を行う機能、宇宙環境にさらされても搭載機器の温度を適切な範囲に保つ熱制御機能など、さまざまなサブシステム機能で構成されています。

それぞれの機能を担当するエンジニアと調整を図りながら、目標とする性能や機能を発揮できるように衛星をひとつのシステムとして形にしていくというのが我々の役割です。

- 今回、革新的衛星技術実証2号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。

沼田  今回実証する複数波長赤外線観測超小型衛星「Z-Sat」は、遠赤外線カメラと近赤外線カメラという異なる2つのカメラを有しています。

これらのカメラで地球表面を同時に観測し、それぞれの画像を解析的に重ね合わせることで、ひとつのカメラでは得られない地表面の温度分布に関する情報がより詳細にわかります。 この情報により、たとえばプラントの稼働状況といった地上での経済活動を把握するなど、想定顧客に、より有益な情報を提供するサービスができないかと期待しています。

これまでも異なる波長帯の赤外線カメラで同時に撮像するという衛星はありましたが、主に大型衛星で実現されたもので、「Z-Sat」のような50kg級の衛星で実現するという試みは世界でも例がありません。世界に先駆けて実施することができれば、新たなビジネスチャンスの獲得に繋がると期待しています。

成澤  熱を発するような経済活動の一例としてプラントの稼働状況を挙げましたが、交通や海運といったものも熱的な動きとしてみることができると考えています。

そういった経済活動の動きを「見える化」することで、これまでなかった新たな情報としての価値を生み出し、新たなビジネス機会の創出に繋がっていくのではないかと思います。


複数波長赤外線観測超小型衛星「Z-Sat」振動試験

- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。

沼田  革新的衛星技術実証プログラムの打上げ時期が決まっている、ということが、超小型衛星を開発する者にとって事業計画や開発計画を立てるのに非常に大きなメリットでした。

いつ打上げるのかわからないという状況では、なかなか計画も立てられません。革新的衛星技術実証プログラムでは、そういった不確定要素が排除できるということが今回の応募動機となりました。

- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。

沼田  50kg級超小型衛星の打ち上げ機会を提供していることはもちろんですが、安全審査などでのJAXAのサポート面といった安心感の点も「革新的衛星技術実証プログラム」を選定する決め手となりました。

- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。

成澤  定期的にミーティングを開いていただき開発を円滑に進めることができました。特にロケットのインタフェースなど安全審査に関わるところでは、充実したサポートをいただき、非常にありがたかったです。

- 革新的衛星技術実証2号機での実証後の展望についてお聞かせください。

沼田  今回の実証をもとに、改良点を反映した実用機となる衛星をこの後も打ち上げていき、赤外線画像処理技術を使った分析サービスの提供に繋げていきたいと思います。

また、複数機の衛星による観測網を宇宙空間に構築し、より詳細で価値のある地上の情報を得ることが可能な宇宙システムを作って社会に貢献していきたいと考えております。

成澤  大型衛星は社会の基本的なインフラとして今後も絶対に必要だと思います。一方で、小型衛星のコンステレーションで時間分解能の面を補う、というようなWin-Winな関係が築ければ良いと思っています。

「Z-Sat」の成果をいろいろな人に見ていただいて、どういったところにビジネスの機会があるのか探りながら、今後の目指す姿を見極めていきたいと思っています。


「Z-Sat」フィットチェック

- JAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。

沼田  弊社はこれまでロケットメーカーとして多くの方に認知していただいており、打上げ時にはたくさんの応援をいただいています。

一方で衛星を作っているということは、あまり知られていません。社内でも我々は小さな組織で開発をしていますが、衛星を通じてこれまで得られなかったような新たな情報を得て活用し、社会をよりよく変えていくサービスを提供していきたいと考えています。

Z-Satのみならず、弊社では続く「革新的衛星技術実証3号機」の「小型実証衛星3号機」 の開発も担当しております。

ぜひこの機会に三菱重工も衛星を開発しているということを多くの方に知っていただいて、ロケットに加えて私たちの衛星も応援していただければと思います。

» 複数波長赤外線観測超小型衛星 Z-Sat

Interview 1 1号機に関わる人々