革新的衛星技術実証2号機 実証テーマ

軽量・無電力型高機能熱制御デバイスを軌道上実証し、小型・低コスト化を実現する

東北大学 流体科学研究所 流動創成研究部門 宇宙熱流体システム研究分野

次世代流動実験研究センター センター長 永井大樹 教授

フレキシブル展開ラジエータ、高熱伝導サーマルストラップ、流体式サーマルストラップ。この3つを組み合わせ、軽量・無電力の熱制御デバイスの実証を行う東北大学/名古屋大学/JAXAの研究コンソーシアム。代表者である東北大学の永井大樹教授にお話を伺った。

- 先生の研究内容について教えてください。

我々の研究室では、打上げから地球帰還までの宇宙機に関わる熱流体現象の解明というテーマに取り組んでいます。

具体的には、今回の革新的衛星技術実証2号機に提案している宇宙機の熱制御デバイスや熱システムの研究開発、また「はやぶさ」カプセルのような惑星大気に突入する宇宙飛行体周りの流れの解明とその流れ場の制御に関する研究を行っています。

最近では特に火星を飛行する飛行機、いわゆる火星飛行機に関しても、注力して研究をしています。

いずれの研究も、JAXAの各部門と研究を進めていて、筑波、相模原、調布の3つの拠点と研究を進めている珍しい研究室だと思います。

- 今回、革新的衛星技術実証2号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。

今回のテーマは将来の衛星に不可欠となる軽量・無電力の熱制御デバイスの軌道上実証です。

具体的にはフレキシブル展開ラジエータ(フィンを開閉することで熱制御する世界最高レベルの比放熱性能の展開ラジエータ)、高熱伝導サーマルストラップ(従来よりも軽量で高い熱コンダクタンスを有する低コストのサーマルストラップ)、流体式サーマルストラップ(超薄型ループヒートパイプをつかった高い熱コンダクタンスを有するサーマルストラップ)を組み合わせた軽量・無電力の熱制御デバイスを構築して、宇宙での熱制御性を実証するというものです。

3つの熱制御デバイスは熱的に結合していて、コンポーネント内部にヒーターを装備し、ヒーターからの熱を2つのサーマルストラップを介して展開ラジエータに輸送、展開ラジエータで実際に放熱するという方式で、データとしては個別に評価できるようになっています。特に展開ラジエータには小型のカメラが取りつけられていて、ラジエータの展開の様子を確認することになっています。

これらのデバイスは、使用に際して電力を必要としないことから、深宇宙探査など電力が極限まで制限される環境でも熱制御が可能です。また、小型衛星で今後問題となる、機能性能向上に伴う発熱量の増加に関する問題を解決する技術として実用化が期待できます。

- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。

宇宙環境で熱制御デバイスを実証する機会自体が多くなく、特に新しく開発した熱制御デバイスを衛星に搭載するという機会はなかなかありません。熱制御デバイスは衛星システムの基盤となる部分で、実証されていない新しい技術は採用されにくいという面があります。

熱制御は衛星にとって不可欠な要素であり、熱制御しないと衛星自身が機能しませんし、基盤・基幹部分を担う技術だからこそ、新しい熱制御デバイスが衛星システムに搭載されれば、衛星の設計自由度を飛躍的に上げることができます。そのため我々は熱制御デバイスの研究開発を行いながら実証機会をうかがってきました。

- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。

一番大きな理由はタイミングです。研究開発の出口を考えていた際に、革新的衛星技術実証2号機の募集があったというのが大きな理由です。

ISS(国際宇宙ステーション)の「きぼう」日本実験棟の簡易曝露実験装置(ExHAM)も候補に挙がりましたが、我々が提案しているフレキシブル展開ラジエータ(収納した状態で打ち上げ、軌道上で展開することによって排熱能力を拡大するラジエータ)の試験には、ISSは太陽光の入射制限が大きいので適していないということで、革新的衛星技術実証2号機への応募ということになりました。

- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。

開発自体に対しては多くの課題がありました。特に今回の展開ラジエータに関しては、可逆アクチュエータを使用することで周りの熱環境に応じて自律的にラジエータが展開するのですが、その確認試験が非常に難しかったですね。

また、流体式サーマルストラップはループヒートパイプが非常に薄型なので、液体の封入量の調整が難しかったことも挙げられます。そういった熱制御デバイスをさらに小さな筐体に押し込んでいますので、効率よくコンポーネント化するのも大変でした。

また、いろいろな試験は学生が中心になって進めてきたのですが、昨今のコロナ禍で大学に入れない期間があり、スマホやタブレットを使って指示をしながら実験をやることにもなりました。

不便もありましたが、オンラインの活用で、新しい開発の進め方のスタイルができたのではないかと考えています。

- これまで、同プログラムに参加する中で、JAXAのサポートはいかがだったでしょうか。

定期的な打ち合わせや、システム担当企業とのすり合わせにおいてかなりのサポートをしていただきました。特に搭載する機器に関してのICS (インタフェース管理仕様書)の作成において助言をいただきました。

- 革新的衛星技術実証2号機での実証後の展望についてお聞かせください。

我々の熱制御デバイスは、民生部品を使って低コスト化することを目指しており、海外に対してどこで優位性を出すかということを意識しています。

今回のデバイスはサイズが小さいので、特に最近市場を開拓されている小型衛星には、すぐに適用できるのではないかと考えています。もちろん海外の小型衛星への適用も視野に入っています。

また我々の開発している熱制御デバイスは電力を使わない技術を用いているので、人工衛星はもちろん火星やより遠い惑星に行く探査機に搭載する際に有効に使えるのではないかと思います。

- 最後にJAXAのホームページ等をご覧になっている方へのメッセージがあればお願いいたします。

我々が今回提案している熱制御というテーマは、直接的に衛星や探査機の何に貢献するのか一般の人にはわかりにくいと思いますが、革新的衛星技術実証プログラムで取り上げていただくことによって、宇宙機の熱制御デバイスの存在とその開発の意義を少しでも伝えることができれば、我々としては非常にうれしいです。今後の研究開発の後押しになると信じています。

最後に、東北大では工学・理学をはじめ、最近では生物学でも宇宙での実験を考えている先生がいますので、今後も宇宙に力を入れていきたいと思います。

» 軽量・無電力型高機能熱制御デバイス ATCD

Interview 1 1号機に関わる人々