革新的衛星技術実証4号機 実証テーマ

再チャレンジ -宇宙空間で膜を展開し、大気抵抗を用いたデオービット機構を実証する

株式会社アクセルスペース

AxelLiner事業本部 副本部長 倉田 稔
AxelLiner事業本部 汎用衛星プラットフォームグループ 機械系ユニット
Tech Lead of Mechanical Engineering 原山 世菜

宇宙ごみ(スペースデブリ)問題への対策として注目される膜面展開型デオービット機構「D-SAIL」。衛星の運用終了後に膜を展開し、大気抵抗を利用して軌道離脱を実現するこの技術は、持続可能な宇宙利用の鍵を握る。アクセルスペースの倉田氏と原山氏に、開発の背景と今後の展望を伺った。

- イプシロンロケット6号機打上げ失敗による宇宙実証の機会喪失を受け、今回、革新的衛星技術実証4号機の実証テーマとして再チャレンジに臨まれます。どのような思いで再チャレンジを決断されましたか。

倉田  D-SAILは衛星が運用を終えた後に膜面を展開し、軌道離脱を実現する装置です。そのため、当社が運用する衛星に搭載した場合は、打上げから5年ほど経過してから軌道離脱の実験を開始することになります。革新的衛星技術実証プログラムで実証すれば、打上げから1年程度で実証実験に移れるため、より早期に技術実証ができると考えました。こうした背景から、再チャレンジを決断しました。

原山  3号機に搭載したD-SAILのために開発・調整したシステムとのインターフェースは維持されています。つまり、これまでの開発の成果や地上での検証結果をそのまま活かすことができるため、より少ない開発負荷やコストで、より確実に実証できることが大きな意義だと感じています。また、4号機でもシステム側に搭載されたカメラにより、膜面展開動作や膜面展開後の状態を画像で確認できることはより有意義な実証機会になると考えます。

膜面展開型デオービット機構「D-SAIL」
引き渡し前の最終確認の様子

- 革新的衛星技術実証4号機で実証したいことはどのようなことでしょうか。

原山  D-SAILは、衛星がミッションを終えた後に、地球低軌道を確実かつ速やかに離脱させるという重要な役割を担います。地上ではこれまでに何度も膜面展開試験を行ってきましたが、実際の宇宙ではロケット打上げ時の振動や温度変化、さらに軌道上での長期保管を経ても、正常に展開・作動するのかを検証する必要があります。
D-SAILの膜は数十ミクロン程度の薄さで、膜面を広げると約2㎡と、畳1枚ほどの大きさです。まるでヨットの帆が風を受けるように、低軌道の薄い大気を“帆”でとらえて抵抗に変え、衛星の高度を徐々に下げていきます。その挙動を、4号機に搭載されたカメラで視覚的に確認できるのは、今後の実用化に向けた重要な知見になります。

倉田  衛星の廃棄方法には、大きく分けてスラスタ等を使って大気圏に突入させる能動的な方法と、大気抵抗を利用する受動的な方法があります。D-SAILは後者で、衛星に軌道離脱(デオービット)のためだけのスラスタや推薬を搭載しなくても済むのがメリットです。ただし、太陽の活動状態や進行方向に対する膜面の向きなどによって、受ける抵抗は変動します。今回の実験では、面積が約2㎡の膜面が実際に受ける大気抵抗を測定し、実際の軌道上環境で期待できる性能を定量的に検証する予定です。

展開後の膜面
展開試験の様子

- 実証後の展望(次の研究開発や事業計画等)をお聞かせください。

原山  今後は数十~数百の小型衛星で構成されるメガコンステレーションによる宇宙利用が増加していくでしょう。当社も地球観測衛星を複数機打上げて運用し、コンステレーションを構成しています。そのとき、役目を終えた衛星を確実に大気圏へ再突入させることは、宇宙環境を守る上で欠かせません。この実証を経て、D-SAILを当社が開発する汎用バスシステムに標準搭載し、衛星メーカーでありオペレーターでもある当社として、より効率的で持続可能な衛星運用を実現したいと考えています。

倉田  D-SAILはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受け、サカセ・アドテック株式会社と共同で開発を進めています。今回の実証結果をふまえ、膜面材質や展開構造などの改良も検討し、さらに信頼性の高い製品として仕上げていきます。当社ではGreen Spacecraft Standardという独自の指針を通じ、業界全体のサステナビリティの向上にも積極的に貢献しています。D-SAILは、その標準の中で「衛星を確実に廃棄するための具体的ソリューション」として位置づけられ、持続可能な宇宙利用を世界に広げていくための要となるものです。当社以外の商業小型衛星への導入も視野に入れ、国際的なルールや標準化の動きとも連携しながら、宇宙環境に優しい“標準的なデオービットソリューション”として展開していくことを目標としています。


» 膜面展開型デオービット機構 D-SAIL