革新的衛星技術実証4号機 実証テーマ

再チャレンジ -水を推進剤とした超小型統合推進システムを軌道上実証する

株式会社Pale Blue

技術戦略室 プロダクトマネージャー / イオンエンジン 斎藤 寛人
研究開発部門 富田 大貴

安全で取り扱いやすい水を推進剤とした推進機を開発する株式会社Pale Blue。水レジストジェットスラスタと水イオンスラスタという2種類の推進機を統合し、多種多様な推進機能を実現する「超小型統合推進システム KIR-X」の軌道上実証を行う。同社の斎藤寛人氏と富田大貴氏にお話を伺った。

- イプシロンロケット6号機打上げ失敗による宇宙実証の機会喪失を受け、今回、革新的衛星技術実証4号機の実証テーマとして再チャレンジに臨まれます。どのような思いで再チャレンジを決断されましたか。
併せて、再チャレンジするにあたって変更したことがあれば教えてください。

斎藤  革新的衛星技術実証3号機で実証する予定だった「KIR」は、創業後間もなく採択されたプロジェクトで、創業メンバーを中心に当時新しく加わったメンバーが試行錯誤しながら宇宙機の開発に対する理解を深めていました。私自身もその頃に入社した一員として印象に残っています。KIRは弊社として初の宇宙実績獲得を目指す、全社の思い入れも強い極めて重要な機会でしたが、結果的に宇宙実証には至りませんでした。しかし、この挑戦で会社として開発ノウハウを蓄積し、次へ向かう力を得られたことは大きな意味がありました。
そして今回、革新的衛星技術実証4号機で再チャレンジの機会を頂きました。3号機の時点と変わった点は大きく2つあります。
1点目は、事業環境の変化です。我々が手掛ける小型推進機の分野でも海外競合が宇宙実証を元に成果を上げ始めており、世界の競合に立ち向かうにはKIRから進化した推進機が必須でした。そこで再チャレンジでは、イオンスラスタのコア技術を刷新し、推力や比推力といった重要指標を大幅に改善した推進機の開発に取り組みました。この再チャレンジ機は、KIRで培ったノウハウを最大限活用し、更にその先へ進むという意味を込めて「KIR-X」と命名しました。
KIR-Xでは高い目標を掲げたため開発は決して順風満帆ではなく、JAXA様やシステムメーカー様との密な連携、そして協力会社の皆様の力強い後押しがなければ、到底納入までたどり着けませんでした。皆様の思いが、技術的にも精神的にも開発の原動力になったと実感しています。改めてお力添えいただいた皆様に感謝申し上げます。
2点目は、人材とチームの成長です。 KIR開発時は創業メンバーが主導しましたが、KIR-Xでは私を含め、KIRで開発を学んだメンバーがプロジェクトを牽引する立場となりました。3号機のKIR経験者が次のKIR-Xプロジェクトを担い、そこでまた新しいメンバーが自身の専門性を開発に活かすという人材成長の好循環が生まれ、再チャレンジによって開発体制がさらに強化されました。このようにKIR-Xは、事業、技術、人材の面で新たな挑戦となり、会社として前進する機会となったと考えています。

水を推進剤とする超小型統合推進システム KIR-X
引き渡しの様子
真空チャンバでの試験の様子

組立の様子

- 実証後の展望(次の研究開発や事業計画等)をお聞かせください。

富田  先に述べた開発で得た成果を、今後は2つの展望に繋げていきます。
1つ目は、まずなによりKIR-Xの宇宙実証を成功させることです。開発機はJAXA様へ引き渡しましたが、製品として完成しても、宇宙での作動実績がなければ顧客への十分な訴求力は得られません。事業成果を目標に始まったKIR-Xですから、宇宙実証を成功させてこそ当初の目的を達成でき、お力添えくださった皆様への何よりの恩返しになると信じています。
2つ目は、KIR-Xの成果を次の開発へ活かすことです。私たちは超小型水スラスタの本格的製品展開に向け、当初より「コア技術の獲得とシステム化」、そして「システムとしての洗練」という2段階の計画を立てていました。KIR-Xでは、第一段階に戦略的な重点を置いて開発を進め、成果を収めました。その後も立ち止まることなく第二段階のシステム洗練化に着手しています。先にも述べましたが、KIR-X開発を通してメンバーの理解が深まり、新たな技術的知見も得られたことで、次の開発へスムーズに移行できています。この先に生まれる製品を弊社の収益の柱の一つとするべく、今後も力強く開発とその先の事業展開を推進していきます。

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