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革新的衛星技術実証4号機 実証テーマ
折り紙構造による超高利得展開リフレクトアレーアンテナ技術の宇宙実証
東京科学大学
工学院 教授 坂本 啓(写真右)
工学院 准教授 戸村 崇(写真左)
折り紙技術によって畳むことができる2層展開膜にアンテナ素子を貼り付け、10cm 立方サイズから約 25 倍の投影面積へ展開することで、これまでになく軽量・高収納率な宇宙用展開アレーアンテナを実証する東京科学大学坂本啓教授と戸村崇准教授に革新的衛星技術実証プログラムへの応募のきっかけや今後の展望について伺った。
- 先生のご研究について教えてください。
坂本 私は宇宙に大きな構造物をどうやって作るかという研究に取り組んでいます。小学生の頃にSFアニメ「機動戦士ガンダム」のスペースコロニーを見て、宇宙の中にぽつんと浮かぶ構造物を自分で作ってみたいと思ったことがきっかけでした。大学院に入って、宇宙に打ち上げる前にいったん小さく畳み宇宙で大きく広げる「宇宙膜構造」と出会い、以来、微小重力という特徴を活かした宇宙ならではのペラペラな構造物に惹かれています。
戸村 私は電波を効率よく送受信するアンテナの研究に取り組んでいます。中学生のころ、携帯電話が普及しはじめ、その本体から伸びていたアンテナに強い興味を持ちました。大学に進学してからは、アンテナの動作原理をマクスウェル方程式だけで説明できるというエレガントさに魅了され、アンテナ研究の道に進みました。しかし研究を進めるうちに、マクスウェル方程式だけでは語り尽くせない複雑な世界であることを知りました。その性能は形状・材料・機械構造など多くの要素に依存していて、電気・機械・材料など幅広い知識の融合が求められます。自ら考えたアイディアを形にし、これまでにない特性を持つアンテナを実現できたときの喜びは格別で、この挑戦こそが私の研究の原動力になっています。
- 今回、革新的衛星技術実証4号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。
坂本 3Uサイズのキューブサット(10cm×10cm×34cm、4.4kg)であるOrigamiSat-2は、折り紙技術によりコンパクトに畳める2層展開膜にアンテナ素子を貼付した、これまでになく軽量・高収納率な宇宙用展開アレーアンテナ技術を実証するものです。5mm間隔で離れた2層からなる膜構造が10cm 立方サイズから50cm×50cmの投影面積へ展開することで、アンテナ利得を高めることができます。
このような比較的大型なアンテナ面を、折り紙のように折り畳める平面形状で構成するために、「リフレクトアレー」アンテナ方式を用いています。このアンテナ構造には4つの独自性があります。第一に、アンテナ面に高い平面度を要求しない考え方で、アンテナ構造を軽量化していること。第二に、膜材として平織布を使って、その伸縮性を活用して低容量収納を実現していること。第三に、折り線をまたがない反射素子構造を採用して畳めるようにしていること。第四に、「飛び出す絵本」のように展開後に5 mm間隔で離れる2層構造を使って、展開後に「誘電体層」の厚さを確保する新しい方式を提案して実現していること、です。これらの独自の設計アプローチにより、これまでになく軽量で高い収納率を持つ衛星搭載アンテナ技術を世界に先駆けて軌道上で実証します。
今回の宇宙実証を通して、4つの成果を目指しています。第一に、提案する2層式展開膜リフレクトアレーアンテナを構造物として宇宙で実現します。第二に、そのアンテナの高利得性能を軌道上で実証します。第三に、C帯5.8GHzアマチュア無線技術の普及・発展に貢献します。第四に、先進宇宙システムを継続的に宇宙実証する手法構築と人材育成を行います。
- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。
坂本 新しい膜アンテナ技術をとにかく宇宙で実証したかったからです。私は以前、2010年打上げのJAXAの小型ソーラー電力セイル実証機IKAROSのプロジェクトに参加して14×14mの膜構造物の設計・解析を担当しました。IKAROSプロジェクトは大成功でしたが、後から展開膜の挙動データを見ると、膜の剛性の影響など予測外の現象が見られました。 自分が学生時代から取り組んできたシミュレーションの前提が不十分だったことに衝撃を受けて、展開構造を宇宙で実証する大切さを痛感しました。地上での試験や解析はあくまでも自分たちが想定しうる条件しか評価ができません。真に新しい技術は、実際に宇宙で使ってみるところまでやりきって初めて、机上の空論を超えられるのだと感じています。
戸村 宇宙での実証を通して新しい技術を社会実装につなげたいと考えています。膜アンテナは、超軽量かつ大面積という特性を持ち、将来的には通信、観測、防災など多様な分野への応用が期待できます。宇宙実証によってその信頼性を示すことで、産業界や他分野の研究者が安心して利用できる技術基盤を築くことができます。研究室で生まれたアイディアを、社会に役立つ形で現実のシステムに展開していく。その第一歩が宇宙実証だと考えています。「革新的衛星技術実証プログラム」はそれを実現できる素晴らしい機会です。
- ほかの実証機会と比較して、「革新的衛星技術実証プログラム」を選ばれた理由がありましたら教えてください。
坂本 私はこれまで2度、本プログラムに参加し、非常に手厚いご支援をいただけることを知っておりました。まず、革新的衛星技術実証1号機の3UサイズのキューブサットOrigamiSat-1の開発責任者を務めました。OrigamiSat-1は、2019年1月にイプシロンロケット4号機で地球周回低軌道へ打ち上げられました。次に3号機コンポーネント実証テーマとして選定され4号機で再チャレンジが実施される「Society 5.0に向けた発電・アンテナ機能を有する軽量膜展開構造物の実証」(提案代表者:サカセ・アドテック株式会社)のミッションの1つである、「第5世代通信ミリ波アンテナ」ミッション機器の開発を担当した経験があります。
戸村 私もOrigamiSat-1開発に参加していました。今回も、ロケット側とのインターフェース調整や安全審査の相談など、フレキシブルな対応をしてくださり助かっています。JAXAの方々も含め、関係する全員がワンチームとなって達成される宇宙実証であると感じています。
- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。
坂本 2019年打上げのOrigamiSat-1は衛星の信頼性が低くミッションの一部のみの実施に留まってしまった経験を活かし、信頼性の高い衛星を、限られた時間で作るためのノウハウ・技術について、これまで超小型衛星を作られてきた国内の多くの先人たちに相談しました。皆様惜しみなくノウハウ・技術をご提供くださり、前号機よりもずっと完成度の高い衛星を作ることができました。「巨人の肩に乗る」ことで遠くを見通せるようになっていて、心より感謝しています。
戸村 2層展開膜アンテナは前例のない新しい技術ですので、開発の過程では思ったように性能が出ないことがたびたびありました。その際、開発に参加する大学生・大学院生らがとにかく作っては評価し、というトライアンドエラーを辛抱強く繰り返し、様々な新しい工夫を都度追加していって、どんどん良い設計になっていきました。
- 今回の実証により、どのような未来を想像していらっしゃいますか。実証後の展望についてお聞かせください。
戸村 小型衛星に大型アンテナを搭載できれば、衛星を使った新サービスの実現や既存サービスの革新的発展が期待できます。具体的には大きく分けて3つの方向性があります。第一に地球周回衛星通信網の大容量化、第二に高頻度地球観測を実現する小型合成開口レーダー(SAR)衛星コンステレーションのさらなる低コスト化と高解像度化、第三に小型深宇宙探査機への大型アンテナ搭載による通信距離・容量の増大、です。アンテナは開口面積が大きいほど通信速度の向上、通信距離の拡大、観測データの高解像度化が可能になります。しかし従来はアンテナ面が高い形状精度を持つことを前提としており、結果として軽量化・高収納率化が阻害され、大型化が難しかったわけです。今回のOrigamiSat-2ではこうした課題を踏まえ、アレーアンテナ面を剛性が著しく低い膜面で構成し、あえて高い平面度を要求しないという独自のアプローチにより、積極的にアンテナを軽量化・高収納率化して大面積化する技術を開発しました。今回の実証ではまず、地球観測で広く用いられ、アマチュア無線帯でもあるC帯(5.8 GHz)でのアンテナ利得向上を実証します。今後は興味を持って下さった企業の皆さんと一緒に、この技術を実際のサービスにつなげていきます。
坂本 同時に今後も宇宙実証機開発を通じ、宇宙開発で挑戦をしたい、特に若い人たちのコミュニティづくりに取り組んで、次なる技術開発の担い手の育成に努めたいです。また、小中高生たちに「宇宙は本当に面白い」ことを知ってもらい、宇宙開発の未来は自分たちの手で作るのだ、と感じてもらえる情報発信を続けたいです。
» 折り紙リフレクトアレーアンテナ実証衛星 OrigamiSat-2


