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革新的衛星技術実証4号機 実証テーマ
地震先行現象検知による確率地震発生予測実証CubeSat
日本大学
理工学部 航空宇宙工学科 准教授 山﨑 政彦
近年、高度80kmの電離圏D領域で発生している夜間電離圏変動現象が地震先行現象ではないかと、統計的解析により指摘されるようになってきた。この現象をさらに知るために超小型の電場・プラズマハイブリッドセンサーを搭載し、この電離圏の変化をキューブサットで宇宙から捉えることを目指す日本大学の山﨑政彦准教授に革新的衛星技術実証プログラムへの応募のきっかけや今後の展望について伺った。
- ご自身の研究内容について教えてください。
山﨑 これまで、宇宙機システムの力学や低次元モデル化、開発、実証、教育に取り組んできました。最近は、主に地球の観測を中心とした超小型衛星(キューブサット)の開発と、地震に先行するとされる電離圏擾乱の物理メカニズムの解明に取り組んでいます。特に、数十センチ級の超小型衛星であっても科学観測が可能となるよう、観測アンテナや計測器の小型化・高感度化、衛星内外部ノイズの低減設計、軌道上データの解析手法の高度化に取り組んでいます。
また、衛星システムは、機体、地上局、運用者など複数の要素が相互に連携する“総合的なシステム”であることから、システム工学の観点を取り入れた設計・開発・運用手法の研究や、国際的な人材育成プログラム(HEPTA-SAT)を通じた宇宙科学教育活動にも力を入れています。これまでに世界50か国以上で2,000名以上が受講し、超小型衛星の開発・活用に取り組む技術者育成を進めてきました。
- 今回、革新的衛星技術実証4号機に応募されたテーマの概要と今回の実証を通じて期待する成果を教えてください。
山﨑 「PRELUDE」は、地震に先行して生じる可能性が指摘されている電離圏変動を観測するために開発した W6U サイズのキューブサットです。約10cm x 20cm x 30cmの小さな人工衛星でありながら、軌道上では1.5mのセンサを上下に展開します。これにより、地上では捉えにくい電離圏の変化を宇宙から連続的に観測することを目指しています。
今回の実証で期待しているのは、まず 超小型衛星でも高感度の観測が可能であることを示すことです。衛星内・外部ノイズの低減や電場・プラズマハイブリットセンサユニットの設計など、これまでに取り組んできた技術が、軌道上でどのように性能を発揮するかを確かめます。また、観測データを蓄積することで、地震前後の電離圏変動の特徴や現象の再現性を評価し、物理メカニズムの解明につながる知見を得たいと考えています。
将来的には、この技術を複数機で運用する衛星コンステレーションへ発展させ、電離圏を高頻度・高精度で監視できる新しい地球観測インフラとして、防災・地球科学・宇宙天気など幅広い分野に役立てることを目指しています。今回の実証は、その第一歩となる重要な機会だと考えています。
- 革新的衛星技術実証プログラムへの応募動機を教えてください。
山﨑 今回の応募の出発点は、共同実施者である静岡県立大学の鴨川仁先生とUNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)を通して出会い、地震に先行するとされる電離圏変動の観測可能性について議論を重ねたことに始まります。私は学生時代から超小型衛星の設計・開発に携わってきましたが、鴨川先生が超小型衛星のミッションアイデアコンテストで提案されていた「電離圏の地震先行シグナル」をキューブサットで捉えるというテーマは、これまでの経験と関心に強く結びつき、自然な形で共同研究へと発展していきました。
過去にはフランス国立宇宙研究センター(CNES)の電磁観測衛星DEMETERが重要な成果を残していますが、より高い空間分解能・時間分解能でデータを取得し、科学的検証を進めるためには、より高頻度で観測できる新たなプラットフォームが必要です。そこで、W6Uサイズのキューブサット「PRELUDE」を開発し、電場・プラズマ観測機器を小型衛星向けに最適化しながら、次世代の電磁観測手法を実証することを目指しました。
「電離圏にそのような先行現象が実在するのか」、「存在するとすればどのような物理メカニズムなのか」、「小型衛星でどこまで高感度観測が可能なのか」といった根本的な問いに答えるためには、実際に宇宙で観測を行う必要があります。
ちょうどこの開発段階で、革新的衛星技術実証4号機の機会が得られたことは、大変貴重なタイミングでした。安全審査や技術実証を経て軌道上で科学観測を行うという本プログラムの枠組みは、高リスク・高インパクトの先端研究を着実に進めるための理想的な環境であり、PRELUDEにとって非常に意味のあるステップだと考え、応募しました。
- 開発において苦労した点、克服するための工夫などあれば教えてください。
山﨑 PRELUDEでは、10cm級の衛星から両側に1.5mの電場センサを展開する必要があり、この展開構造の実現には多くの試行錯誤がありました。開発初期には英国の企業を訪問して実現可能性を探るところから始まりましたが、最終的には国内企業と協力し、材料選定から展開機構の細部設計までを一つずつ検証しながら完成させました。また、PRELUDEに搭載している電場・プラズマのハイブリッドセンサは、真空かつプラズマ環境で安定動作させる必要があり、試験方法そのものの設計から取り組む必要がありました。JAXA宇宙科学研究所やフランスの研究所を訪問し、プラズマ試験の手法を模索しながら、試験計画を組み立て、段取り通りにはいかない試験を何度も繰り返すことで、センサの信頼性を高めていきました。
さらに、学生主体のチームであるため、世代交代による技術継承やチーム力の維持も大きな課題でした。技術だけでなく、プロジェクトに向き合う姿勢や判断軸といった“マインド”をどのように共有し、経験不足による失敗を許容しながら前に進むか——そのバランスを取り続けることも重要な工夫でした。こうした試行錯誤の積み重ねが、現在のPRELUDEのシステムとして結実しています。
- 今回の実証により、どのような未来を想像していらっしゃいますか。実証後の展望についてお聞かせください。
山﨑 今回のPRELUDEによる実証を通じて、まずは6Uクラスの電磁観測衛星を確実に設計・開発・運用できる技術基盤を、日本大学・静岡県立大学のチームとして確立したいと考えています。その上で、PRELUDEの 2号機および3号機にて、観測性能の向上やシステムの信頼性強化、複数機による同時観測(コンステレーション化)に向けた要素技術の実証を進めていく予定です。
また、PRELUDEで得られた知見を国際的に広く展開し、電離圏観測に関心を持つ国内外チームとも協力して、同じプラットフォームを用いた衛星の共同開発・共同運用へと発展させたいと考えています。世界各地で観測点を増やすことができれば、電離圏における電場・プラズマ変動の全球的な把握が可能となり、新しいタイプの電離圏観測網を構築できると考えています。
さらに、PRELUDEの観測データを詳細に解析し、地上の大気電気観測結果と組み合わせることで、地震に先行するとされる電離圏変動の実在性や、その背後にある物理メカニズムの解明につなげたいと考えています。将来的には、こうした科学的知見が防災・地球科学・宇宙環境モニタリングに貢献する新しいインフラの基盤となることを期待しています。


