研究の意義価値
大容量の衛星通信を実現するために必要な要素技術や電波伝搬制御に資する技術を研究することにより、衛星通信ユーザの多様化する要求を満たし通信の信頼性を向上します。
光HPA、デジタルコヒーレント技術、高感度受信技術等は月通信インフラ構築のために必要な要素技術であり、それらを獲得することで国際協調プログラムであるアルテミス計画等において日本の役割を果たすことにつながります。
また、より高精度でロバストな(干渉に強い)測位技術を開発することは国民生活の利便性向上に直結します。

非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network)構成例
参考情報
低軌道衛星MIMO技術による通信の大容量化を確認
JAXAは、NTT 株式会社(以下「NTT」)と世界初の「衛星MIMO※1技術を活用した920MHz帯衛星IoTプラットフォーム(図1)」の実現に向け、小型実証衛星4号機(RAISE-4)※2に低軌道衛星MIMO/IoT伝送装置(LEOMI※3)を搭載し、低軌道衛星MIMO技術の軌道上実証実験を実施しています。2026年3月よりLEOMIの定常運用を開始し、低軌道衛星MIMO技術により従来の通信方式と比較して2~2.5倍以上の大容量化が確認できました。さらに、得られた伝送容量と、衛星軌道やアンテナ配置情報に基づいて解析した伝送容量を比較したところ、伝送容量の変動トレンドが高精度に一致し、事前に伝送容量の変動の傾向を推定できることも確認できました。

©NTT/JAXA
図1「衛星MIMO技術を活用した920MHz帯衛星IoTプラットフォームの軌道上実証」のイメージ
| 名称 | 各社の役割 |
|---|---|
| NTT | ・MIMO/IoT衛星実験運用全般 ・衛星搭載機器(MIMOデジタル部、IoT部)の開発 ・実験系の地上局における復調機の構築、運用、データ評価 |
| JAXA | ・MIMO衛星実験運用全般 ・衛星搭載機器(MIMOアナログ部)の開発 ・実験系の地上局アンテナ及び無線周波数(RF)部の運用、データ評価 |
電波の周波数は有限であり、今後飛躍的に増加する衛星の数に対応し更なる周波数利用効率の向上を実現する技術が「MIMO」です。MIMOは送受信アンテナ数に応じて同一周波数で固有のチャネルを作り出す空間多重化技術です。低軌道衛星のように地上から見た衛星の相対位置が時々刻々と変化する環境では、複数アンテナ使用時にチャネル間の相関が高くなりMIMO技術の適用が難しいとされてきましたが、「低軌道衛星MIMO技術」では、衛星から地上基地局への通信であるフィーダリンクにおいて、地上基地局の遠隔に配置した複数の受信アンテナに向けて、衛星から複数アンテナを用いたMIMO伝送を行い、地上基地局への受信信号の集約後、MIMO信号の同期およびチャネル推定を行い、信号の等化を行うことで、信号の多重伝送を実現します。本技術を確立することで、将来の衛星通信の抜本的な大容量化の実現が可能となり、衛星通信の伝送速度の向上や、端末の同時接続数の大幅な増加に伴い、通信サービスの料金低減に寄与できます。また観測衛星への適用により、より高精細な画像・レーダー情報の取得が可能となり、気象情報、地形変化、海洋観測、災害予測などの観測精度の向上に寄与します。
2026年3月13日の定常運用開始から、衛星搭載機器(LEOMI)のメモリに保存された最大3個のデータ系列を変調して電気信号に変換し、それぞれ最大3台 のアンテナから同一周波数でMIMO伝送し、最大3局の地上局で受信後、MMSEアルゴリズム※4による等化処理を行うことで、信号の分離を行いました。分離後の信号から、伝送容量の時系列データを算出し、従来の送受信アンテナを1台ずつ用いたSISO伝送※5の結果との比較を行っています(SISO、MIMO共に1送信アンテナあたりの送信機出力が同一であることを前提としています)。
今回は、例として送信アンテナ数2、受信アンテナ数2の2×2 MIMOの実証実験と、送信アンテナ数3、受信アンテナ数3の3×3 MIMOの実証実験を、それぞれ一例ずつ示します(図2)。図のように、2026年5月5日の2×2MIMO実証実験では、伝送容量の平均値がSISOに比べて約1.94倍、2026年5月24日の3×3MIMO実証実験では約2.67倍の向上が見られ、低軌道衛星MIMO技術により、アンテナ数を増やした場合でも信号劣化なく大容量化が実現できていることを確認できました。
図2.MIMO伝送とSISO伝送の伝送容量比較
グラフの縦軸の値(伝送容量)が大きいほどより多くのデータを送信できることを示します。SISOと比べてMIMOの伝送容量が大きくなっていることから、低軌道衛星MIMO技術により、複数アンテナ使用時でも信号劣化なく通信の大容量化が実現できていることが分かります。
さらにJAXA・NTTが生成した低軌道衛星MIMOの通信路チャネルモデルを用いて、衛星の軌道シミュレータから今回の実証実験の伝送容量のシミュレーション値を算出したところ、実測値と変動トレンドが一致し、衛星のような軌道予測が可能な通信システムにおけるMIMO技術において、伝送容量の変動パターンを事前に把握可能であることを確認しました。これにより、例えばシステム構築の際に、想定する衛星の軌道情報に基づいて、衛星アンテナ数、衛星地上局アンテナ配置を解析的に設計することで、安定的に伝送容量向上を実現できることが期待できます。
今後は2026年3月から約1年間、安定性確認のため衛星MIMO/IoTの実証実験を継続し、技術の優位性を定量的に示すことで、技術確立を目指します。
用語解説
- MIMO(マイモ:multiple-input multiple-output)。無線通信において、送信機と受信機の双方が複数のアンテナで通信を行い、伝送容量を向上させるための技術。
- 小型実証衛星4号機(RAISE-4)の打上げ結果
- 低軌道衛星MIMO/IoT伝送装置(LEOMI)について
- MMSE(Minimum Mean Square Error:最小平均二乗誤差)
雑音が混じった受信信号から、送信された元の信号を復元するための等化アルゴリズム。誤差の二乗の平均(平均二乗誤差)を最小にする推定方法。 - SISO(サイソ:single-input single-output)
無線通信において、送信機と受信機の双方が1台のアンテナで通信を行う技術。

