経緯
人工衛星等の宇宙機の外表面には、断熱のため、高分子フィルムを積層した多層断熱材(MLI:Multi-Layer Insulation)が広く使用されています。多層断熱材の最外層には、耐熱性、耐放射線、耐紫外線性に優れるポリイミドフィルムが主に使われます。 しかし、地球低軌道環境においては、原子状酸素(AO:Atomic Oxygen;太陽の紫外線で原子状に解離した大気由来の酸素)が多く存在するため、これとの衝突によってポリイミドを含む高分子材料は浸食されてしまいます。
研究開発部門では、原子状酸素の影響と対策について、地上試験や軌道上での試験などを通じて研究を進めてきました。その知見を活かし「超低高度衛星技術試験機『つばめ』搭載『原子状酸素モニタシステム(AMO)』」の開発を行いました。
「つばめ」搭載AMOの概要
原子状酸素の計測に加え、13種類の材料への原子状酸素の影響の計測を行います。地球低軌道環境における長期にわたる原子状酸素計測は世界初となります。
原子状酸素フルエンス計測(AOFS)
下図に示す原子状酸素計測センサを8つ衛星に搭載しています。6つは衛星の各面に搭載し、地球低軌道環境における原子状酸素の量を測定します。また残りの2つを用いて、バックグラウンド*を計測します。
*宇宙環境下では宇宙機(人工衛星、探査機)自身の材料から放出されたガスが、宇宙機に搭載されているカメラのレンズなどに付着し、 取得データの劣化を引き起こすことが知られています。
地球低軌道における原子状酸素の実測データを取得し、現状の中性大気密度モデルとの比較を行います。本実験により、低軌道における衛星の設計指針の確立や大気密度モデルの精度向上を目指しています。
材料劣化モニタ
衛星に用いられる13種類の材料サンプルを搭載、カメラにより定期的に撮像し、サンプルの劣化状況を確認します。画像データと上記のAOFSのデータから、材料サンプルの地球低軌道環境における劣化具合を評価します。
今後の予定
AMOで得られたデータは、将来の超低高度衛星の開発にあたり、材料選定に資する知見を得るとともに、これまで計測値に基づく原子状酸素の環境モデルを構築することにより、宇宙機への原子状酸素による影響の評価と対策に寄与します。