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支える研究 宇宙活動拡大のための機構マテリアル基盤技術の高度化 真空中における駆動系の大型化、高速化技術

月面の活動領域拡大のため、乗員が宇宙服無しで過ごすことができる与圧室を搭載した有人与圧ローバの開発が進められています。現時点での有人与圧ローバの想定外観図を図1に示します。このローバは走行速度10~15 km/h、走行距離約15,000 km、運用期間約10年の性能*を実現することを目指していますが、これらの性能は過去の月面ローバの実績を遥かに超える挑戦的なものです。

この走行性能を実現するためにクリアすべき技術的課題の1つが、走行駆動系の潤滑システムです。本研究では、モータの回転を車輪に伝える駆動系、および車体荷重を受ける車軸支持部の潤滑について技術検討を進めています。

* 2021年11月時点の計画値

図1 月面有人与圧ローバ想定外観図

研究成果の一例

多量の油を用いたギヤボックスの研究

有人与圧ローバの駆動系は、図2のようにモータの駆動力をトランスミッションによって高トルク化、低速化して車輪に伝達する構造です。トランスミッションは複数のギヤの組合せから構成されますが、わずかな面積で動力を伝達するギヤ歯面では摩耗が進行する恐れがあり、適切な潤滑を施す必要があります。

図2 有人与圧ローバ駆動系の構造概略図

これまでの宇宙機の機構摺動部は低蒸気圧なオイルを微量塗布する潤滑または被膜による固体潤滑が一般的でしたが、本ローバ駆動系の摺動条件は宇宙機に前例のない過酷なものであり、宇宙機としては全く新しい潤滑方式を採用する計画としています。具体的には、耐摩耗性などの化学的作用を有する添加剤を含有した潤滑油をトランスミッション内に大量に注入し、そのオイルを循環することにより、強制的に冷却・潤滑する方式を採用する計画です。

この方式を実現できれば、宇宙機の大型化、高速化に対応できる潤滑技術を獲得することができます。現在は月面環境におけるオイルの蒸発特性、摺動特性を評価するとともに、歯車、オイルポンプ、オイルシール等の各種機構部分についても技術獲得を目指して研究を進めています。

車軸回りの高荷重用ころ軸受、すべり軸受の研究

乗員が宇宙服無しで過ごすことができる与圧室を搭載した他天体ローバは世界でも過去に例がありません。これに伴いローバが大型化し、車体荷重を支える軸受には過去の宇宙機で経験がない高荷重が負荷されることとなります。車体荷重の支持軸受は高い荷重がかかった状態で長距離走行に耐える必要があり、その潤滑技術の確立を目指して研究を進めています。