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支える研究 宇宙活動拡大のための機構マテリアル基盤技術の高度化 地球近傍放射線環境影響

JAXA研究開発部門では、特に地球周回衛星に影響を与える放射線帯のエネルギー分布を把握するために、宇宙放射線計測器の開発やデータ解析・較正技術の開発、衛星運用に役立つ予測システムの基礎研究を進めてきました。現在進められている研究は以下の3テーマです。

  1. 計測技術向上の研究
  2. 放射線帯の環境変動予測システムの開発
  3. 磁場データの較正技術高度化の研究

本ページでは「計測技術向上の研究」についてご紹介いたします。

計測技術向上の研究

概要

放射線のエネルギー計測の分野では、放射線の密度が高い領域において発生しやすくなる「パイルアップ」という現象によって、エネルギーを過大/過小に計測してしまうという課題が常に存在します。一般的には、影響が最小限になるように設計をすることで対処されています。JAXAでは、パイルアップ現象の検知と補正技術を開発することで、積極的にパイルアップしたデータを利用する技術確立にチャレンジしています。パイルアップ検知補正機能の実現によって、一つの検出器でより広いエネルギー帯の複数の粒子の計測が可能になります。本研究は、地上での高放射線環境である原子力施設での放射線計測装置の開発実績をもつ東芝エネルギーシステムズ株式会社 との研究開発によって実施されています。

パイルアップとは

図1は、一つのセンサに一つの放射線信号が入力したときの信号を示しています。放射線がセンサに与えたエネルギーは信号のピーク値に比例するため、このピークを正しく捉えなければなりません。ここで、二つ目の信号が入射するタイミングによっては、一つ目の信号に重なる場合があり最大値が変わってしまうことがあります。これをパイルアップといい、放射線の密度が高くなると発生する確率が高くなり、エネルギーの計測に影響するようになります。

図1 パイルアップの説明図

研究の目標

パイルアップの検知とパイルアップ発生イベントに対するピーク値の補正機能を確立します。放射線が1-106 particles/secという率でセンサに入力する環境においても、エネルギーの決定精度を~10%にする計測技術を確立し、実機へ搭載できる形として作り上げることを目標としています。

デジタル信号処理による補正技術の確立

放射線の検出により発生するパルス状の信号は、チャージアンプとシェーピングアンプという特殊な電子回路を使用する事により、放射線検出器が吸収したエネルギーに比例した高さ(電圧)を持つ、一定の形の信号波形となります。通常は、パルス信号のピーク電圧をサンプリングする事で、放射線検出器が吸収したエネルギー量を知る事ができます。しかしながら、2個以上の信号が短時間のうちに発生し、信号が重なってしまう(パイルアップが生じる)場合には、サンプリング値は正しいピーク値を示さず、エネルギー量を正確に知る事が困難になります。

本研究では、パイルアップが生じる場合においても、信号波形が個々の基本的なパルス波形の重ね合わせとなっている点に着目し、サンプリング値から他のパルス信号の寄与を除く事で、パイルアップの影響を補正したピーク値を得る手法を考案しました(図1)。更に、高速かつ低雑音なアナログ信号回路の設計技術とFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いた最新のデジタル信号処理技術を駆使する事で、この検知補正処理をリアルタイムに行う技術を確立しました。この成果は、東芝エネルギーシステムズ株式会社とJAXAの共同特許として出願されました。

更に、この信号処理機能を搭載した実験装置に対して放射線照射を行い、検知補正処理が意図した通りに動作する事が地上試験により確かめられつつあります。地上試験により測定した電子線のエネルギースペクトルにおいて、パイルアップが発生した測定値について本来のエネルギー値に補正されたデータも取得されています。

今後の計画

従来JAXAの開発してきた放射線計測装置は複数枚のシリコンセンサが搭載されています。このような装置に対しても適用できるように、複数センサに対する検知補正技術の確立を目指しています。