研究の概要
地球観測ミッションや宇宙科学ミッションの天文観測などで使われる高感度な観測装置は、微弱な電磁波を高精度に捉えられるよう、信号の熱雑音を低減させる必要があります。
地球観測衛星では液体窒素温度(約-196℃)、また天文観測衛星では絶対零度(約-273℃)近くまで冷却する必要が生じるため、冷却システムの技術は高感度観測装置の実現に必要不可欠となりつつあります。
今現在の宇宙機における主な冷却システムは、特に50K*以下が求められる場合、世界的にも寒剤 (液体ヘリウムなど) を用いたミッションがほとんどですが、寒剤冷却には設計や軌道上寿命に大きな制約が生じるため、より長寿命かつ高い信頼性が得られる無寒剤機械式冷凍機を研究開発しています。具体的には、20Kを作り出す2段スターリング冷凍機、約4.5Kや約1.7Kを作り出すジュールトムソン冷凍機などです。
研究開発している機械式冷凍機の重要な評価試験の一つに寿命評価試験があります。冷凍機の内部には、ピストンの軸受けやバルブなど常に駆動している部品があり、不純ガスによる作動ガス (ヘリウム) の汚染と共に、 それらの機械的磨耗が冷却性能の経年劣化に及ぼす影響を評価するのが寿命評価試験です。本研究では、研究開発中の各機械式冷凍機に対して、実時間の連続駆動による寿命評価を実施しています。
また、将来ミッションでは現行寿命である3~5年よりもさらに長寿命が求められています。そのため、機械的摩耗を低減する設計や不純ガスを抑える設計に加え、加速評価による寿命評価試験の効率化など、長寿命化に向けた研究を進めています。
* 0K = -273.15℃
最新論文
- Y.sato, K.Tanaka, H.Sugita, K.Shinozaki, K.Sawada, N.Y.Yamasaki, T.Nakagawa, K.Mitsuda, S.Tsunematsu, K.Ootsuka, K.Kanao and K.Narasaki, “Lifetime test of the 4K Joule-Thomson cryocooler”, Cryogenics 116 (2021) 103306.
- K.Shinozaki, Y.Sato, K.Sawada, H.Sugita, T.Nakagawa, C.Tokoku, N.Y.Yamasaki, K.Mitsuda, S.Tsunematsu, K.Kanao, T.Prouve, J.M.Duval, I.Charles: “Cooling capability of JT coolers during the cool-down phase for space science missions”, Cryogenics 109 (2020) 103094.
- 佐藤洋一、篠崎慶亮、杉田寛之: 高感度観測ミッションに必要な機械式冷凍機の研究開発, 日本航空宇宙学会誌, 65(8), pp.244-249, 2017.
- 篠崎慶亮: 極低温冷却ミッションに必要な冷却技術, 日本航空宇宙学会誌, 65(6), pp.164-170, 2017.
- Y. Sato, K. Shinozaki, K. Sawada, H. Sugita, K. Mitsuda, N. Y. Yamasaki, T. Nakagawa, S. Tsunematsu, K. Otsuka, K. Kanao, S. Yoshida and K. Narasaki: “Outgas analysis of mechanical cryocoolers for long lifetime”, Cryogenics 88 (2017) p70-77.
- 篠崎慶亮, 澤田健一郎, 佐藤洋一, 田中洸輔, 杉田寛之, 満田和久, 中川貴雄: クローズドサイクル希釈冷凍機の圧縮機開発および希釈冷凍機システム評価試験, 宇宙航空研究開発機構研究開発資料, JAXA-RM-16-007, 2017.
- K. Narasaki, S. Tsunematsu, K. Otsuka, K. Kanao, A. Okabayashi, S. Yoshida, H. Sugita, Y. Sato, K. Mitsuda, T. Nakagawa, T. Nishibori: “Lifetime Test and Heritage On-Orbit of SHI Coolers for Space use”, Cryocoolers 19 (2016) pp.613-622.
- Y. Sato, K. Sawada, K. Shinozaki, H. Sugita, K. Mitsuda, N.Y. Yamasaki, T. Nakagawa, S. Tsunematsu, K. Ootsuka, K. Narasaki, “Development of 1K-class Joule-Thomson cryocooler for next-generation astronomical mission”, Cryogenics, V74 (2016) pp.47-54.