研究の概要
平板型ヒートパイプ(FHP:Flat-plate Heat Pipe)は自励振動型ヒートパイプ(OHP:Oscillating Heat Pipe)を基に開発されたものです。

OHPは蛇行した細管内に作動流体を封入したシンプルな構造です。加熱部を温めると管内で作動流体の蒸発や気泡の膨張が起こる一方、冷却部で熱が奪われることにより作動流体の凝縮や気泡の収縮が起こります。このとき、加熱部と冷却部の間で圧力差が生じ、これが駆動力となって作動流体の振動・循環が起きることで熱が輸送される仕組みです。本研究で開発しているFHPでは、管内に逆止弁を設けることにより、作動流体の流れを一方向に整流し、よりスムーズな熱輸送を図っています。FHPは潜熱と顕熱の両方で熱輸送を行うため、非常に効率的に熱輸送を行うことができるだけでなく、薄型平板形状で宇宙機への搭載性が良いため、将来宇宙機の熱輸送デバイスとして期待されています。
軌道上でのFHPの熱輸送特性を把握するために2012年から行っている軌道上実験では、世界で初めてOHPの軌道上実証に成功しました。FHPは軌道上でも地上と同等の性能(約6000W/mK、アルミの30倍)を発揮し、打ち上げから2年以上経過した今も良好な性能を維持しています。
軌道上実験以外にも、FHPの更なる熱輸送性能・信頼性の向上を目指して、地上実験を通じたFHPの設計パラメータの最適化や設計解析モデルの構築に取り組んでいます。

研究成果(より詳細な研究内容)
逆止弁付平板型ヒートパイプ
FHPは閉ループ型のステンレス蛇行細管をアルミ合金の薄板で挟み込んで平板化したもので、逆止弁によって熱輸送性能を向上させている点に特徴があります。逆止弁はステンレス細管内にセラミック球が入ったもので、セラミック球とステンレス細管の流路形状の関係から作動流体の流れを一方向に整流しています。

平板型ヒートパイプの軌道上実験
平板型ヒートパイプは、2012年にJAXAの小型技術実証衛星SDS-4 に搭載され、軌道上実験を開始しました。ヒータで与えられた熱は、FHP内部の作動流体によって冷却側に運ばれ、宇宙空間へと放熱されます。
FOXが安定動作している際の熱輸送性能(実効熱伝導率)は約6000W/mKを達成しました。打上前の地上試験とも同等の性能が得られており、重力による影響をほとんど受けていないことがわかります。 また、打上げから2年以上経過していますが、劣化も無く良好な性能を維持しています。



発表論文等
- Masakatsu Maeda, Atsushi Okamoto, Haruo Kawasaki, Hiroyuki Sugita:Development of Flat Plate Heat Pipeand the Project of On-orbit Experiment, 41st International Conferenceon Environmental Systems, AIAA2011-5142, 2011.
- 安藤麻紀子,岡本篤,前田真克,杉田寛之:「SDS-4搭載平板型ヒートパイプの開発と軌道上実証成果」,電子情報通信学会技術研究報告.SANE,宇宙・航行エレクトロニクス113(88),87-90,2013.
- Atsushi Okamoto, Makiko Ando, Hiroyuki Sugita:Initial evaluation of on-orbit experiment of flat-plate heat pipe, Proceedings of the 17th International Heat Pipe Conference, Kanpur, India, 2013.
- Makiko Ando, Atsushi Okamoto, Kosuke Tanaka, Masakatsu Maeda, Hiroyuki Sugita, Takuro Daimaru, Hiroki Nagai:On-orbit demonstration of oscillating heat pipe with check valves for space application, Applied Thermal Engineering, 130, 552-560, 2017.
本研究のアウトカム
平板型ヒートパイプは、従来のヒートパイプでは不可能であった「高発熱密度化する搭載機器からの熱拡散」及び「高密度に実装された機器の内部からの排熱ルート確保」を可能にし、既存の熱制御デバイスと組み合わせることで、宇宙機における熱設計の自由度・自在性を飛躍的に高めることができます。