研究紹介

光衛星通信技術の研究

本研究は、光データ中継システムのユーザ伝送レートを、10 Gbps以上に高速化すること(JAXAが2020年度に打上げる光衛星間通信システム(LUCAS)の1.8 Gbpsからの大幅な高速化)、さらに将来的には、月・惑星探査で必要とされる超長距離通信において伝送レートの向上(月-地球間38万kmの伝送時には700 Mbps以上)の実現を目指しています。更に、本技術の、将来の商用通信衛星での超高速光通信用への活用等、光衛星通信技術による、高速な宇宙通信ネットワークの実現を目指しています。

*LUCAS(Laser Utilizing Communication System):光衛星間通信システム

研究の意義価値

宇宙インフラとしてのデータ伝送技術を高速化、小型軽量化することで、観測衛星等の低軌道衛星の意義価値を向上させるとともに、商用衛星での超高速光通信を実現し、衛星通信にかかる産業競争力を強化します。また、はやぶさ(小惑星)やかぐや(月)のような探査衛星においては、 より多くの画像・動画を得ることで、これまで知らなかった宇宙の姿を知ることにつながります。これらを実現するために、システム研究、搭載光通信装置の研究、光地上局の研究等が必要になります。

宇宙での光通信の特徴

宇宙/衛星での光通信とは?

現在、衛星と地上との間の通信は電波で行っています。
光衛星通信は、衛星との通信を電波に代えて光(無線)で行うもので、まずは静止衛星と地球観測衛星の間の通信、さらに静止衛星と航空機との通信等の実現を目指しています。
(当面は、静止衛星と地上の間は電波で通信します。雲があると光では通信ができないからです。光での衛星-地上の通信の研究も国内外で進められています。)

電波通信と比較した光通信の特徴

電波は周波数によりその使い方が定められ、また干渉を避けるため、使用にあたって様々な制約が付きます。
さらに、データ量の増大に対して使用可能な帯域が限られる(20 GHz帯で数GHz)ため、通信速度の高速化が難しくなります。
一方、光は電波と比べて桁違いに広い帯域(波長1.5 μm帯で、5 THz)を有するので、電波より多くの情報を送ることが出来ます。また非常に絞ったビームを使用するため、干渉や傍受の恐れがありません。将来の宇宙での高速大容量通信の実現には、光の活用が不可欠です。

研究の課題と目標

光衛星間通信システム(LUCAS)では、1.8 Gbpsの光通信が実現されますが、地球観測衛星の取得データ量が年々増大していくことを踏まえると、大幅な高速化が必要です。また、LUCASのユーザは大型の地球観測衛星であるALOS-3、ALOS-4ですが、将来はより小型の衛星でも光データ中継サービスを利用できるよう、光衛星通信装置の小型軽量化が必要です。
光衛星通信装置の概略構成ブロック図と、構成要素ごとの課題を、下図に示します。

また、将来の月・惑星等の宇宙探査分野においても、電波通信と比べて伝送データ量を桁違いに増大させるために、光通信の使用が必要です。宇宙機から地上への光直接通信では、地上の大型光学望遠鏡を備えた光地上局で宇宙機からの光を受信します。この際、国際協力により、雲が少なく大気が安定している等の条件を備え、宇宙機との光直接通信に適した、地理的に遠く離れた複数の場所に光地上局を置き、受信に最適な光地上局で受信を行うことが必要です。また、光地上局から宇宙機などへレーザ送信を行う際の、航空機等への安全確保として、レーザを航空機などに当てない仕組みを光地上局に実装する必要があります。

上記に示した課題を踏まえ、本研究では、次の目標を設定し、研究を進めています。

  • 将来型の光データ中継システム(LUCAS後継)におけるデータ伝送要求の増大に対応した高速化、小型衛星ユーザへの光データ中継利用の拡大、衛星ユーザの負担軽減のための機器の小型軽量化を実現する。
  • ユーザ伝送レートの10 Gbps以上への高速化を目指す。そのために必要となる、送信出力の増大に不可欠な高効率・高出力光増幅器や、受信性能の改善に必要な高感度受信技術を実現する
  • 商用衛星の超高速光通信や月・惑星との光通信に不可欠な、光地上局を運用するための技術の実現
  • 併せて、安心安全社会の実現のために不可欠とされる量子通信の世界規模の広域化のために、衛星を用いた高速の量子通信の基礎的・先端的な要素技術を実現する

下図に、これらを達成した暁に実現される、宇宙光通信による高速宇宙通信ネットワークの将来像を示します。

研究成果(より詳細な研究内容)

システム研究

LUCASで実現するユーザデータ伝送量1.8 Gbpsからの大幅なデータ伝送量増大を可能とし、かつ宇宙用として実現可能な光データ中継システムの構築方法を検討することを通して(参考:発表論文1)、さらなる高速化・小型化のための検討を継続しています。

高出力光増幅器の研究
  1. 宇宙機器は強い宇宙放射線に曝されるため、放射線耐性を地上品よりも大幅に高める必要があります。
    光衛星通信に用いる光増幅器(Er Doped Fiber Amplifier, EDFA)の光増幅部であるEDFは特に放射線に弱いため、EDFに耐放射線性を付与する試作研究を大学及び光ファイバーメーカーと実施しています。 JAXAは試作EDFの評価をインハウスで実施しております(写真、図)。 研究の結果、特定の組成であれば、一般的な工程でEDFを製造し、かつ、良好な耐放射線性と高出力・高効率性を実現できることを突き止めました。(参考:発表論文2)
  2. 光増幅器そのものの試作として、高効率動作が期待できるダブルパス型EYDFAを試作し、この形式では世界最高の7W出力を達成しました。 (参考:発表論文3)

耐放射線EDF研究 社内実験設備

光地上局運用技術

光地上局運用技術の研究として、我々は、以下の2つの研究を行っています。

① 雲回避型NW制御技術

  1. 出来るだけ同時に曇ることが無いように地球上に分散配置された、複数の光地上局の中から、宇宙機との光直接通信を妨げる雲の影響が最も小さい光地上局を使って、雲の影響を最小限にし光直接通信を成立させる必要があります。このために、宇宙機の軌道に対する低層~高層雲の観測と判別を行い光地上局を選定し、地上ネットワークを制御することにより、光直接通信を成立させます。大学と共同で、雲観測・判別技術の確立、各光地上局における雲観測・判別結果を収集し最適な光地上局を選定する地上ネットワーク制御技術の確立に向けた研究を行っています。 (参考:発表論文4、5)

② 航空安全技術、捕捉追尾と大気補償技術

  1. 安定した光直接通信の実現のためには、光地上局から宇宙機へのアップリンクレーザー送信時には航空機等に対する安全技術、宇宙機ダウンリンク光を望遠鏡中心に引き込む捕捉追尾技術、そして、大気揺らぎ影響下で受信光エネルギーを極力増やすための大気揺らぎ補償技術が、必要となります。これらを技術確立し安全かつ安定した光直接通信を実現するため、研究用光地上局(写真)と航空保安用レーダー(可搬、JAXA大樹航空宇宙実験場に設置、写真右奥)を活用した研究を進めています。(参考:発表論文6、7)
JAXA入笠山光学観測所
60cm光地上局(固定)
JAXA大樹航空宇宙実験場
30cm光地上局(可搬・写真手前)と航空安全用レーダー
量子通信の研究

安心安全社会の実現のため、絶対安全な通信技術として、量子通信技術が地上では実用化されつつあります。 量子通信をさらに広域で利用するため、将来、衛星量子通信を行うために必要となる、基礎的・先端的な要素技術として、マイクロ光コム光源や量子もつれ光源の基礎研究を、大学と共同で実施しています。 (参考:発表論文8、9)

高感度受信部の研究[実験評価研究完了]

地上の光ファイバ通信システムに用いられている復調技術、レーザ技術を活用し、衛星の運動に伴い発生するドップラーシフトの補正が可能な、高感度受信部の試作を行いました。

FY26までに、復調部を構成する、ドップラーシフト補正が可能な局発光源の試作や、受光部の試作を行い、復調部全体の試作、必要な機能が実現できることを実験的に評価しました。 (参考:発表論文10)

精捕捉追尾機構の試作[完了]

捕捉追尾に係る装置の小型化のため、磁気駆動2軸精捕捉追尾機構を試作し、FY25までに衛星搭載を想定した振動衝撃試験に耐えることを確認しました。(参考:発表論文11)

発表論文等

  1. Araki T, “A Study of the Future Optical Data Relay System; Requirements, Problems and Solution” 2017 IEEE International Conference on Space Optical Systems and Applications (ICSOS), PP119-202
  2. Kobayashi Y. et al., “Effect of P-to-Rare Earth Atomic Ratio on Energy Transfer in Er-Yb-Doped Optical Fiber”, IEEE Journal of Lightwave Technologies, Volume:38, Issue:16, PP4504-4512, 2020.
  3. Araki T., et al., “Experimental results of high power double-pass, double clad EYDFA”, Proc. of ICSO 2018, 7d-2, 2018.
  4. Mukai T., et al., “Development overview of optical ground systems for network switching controls to avoid cloud blockage in Space optical direct communications”, Proc. of 37th international Communications Satellite Systems Conference,29-31 Oct.2019, Okinawa, Japan.
  5. Ueda, Y et. al., “Studies on site diversity to mitigate cloud blockage in satellite- ground optical communications by long term ground meteorological observation data”, Proc. 37th AIAA International Communications Satellite Systems Conference,29-31 Oct.2019, Okinawa, Japan.
  6. 向井達也, 他 ”宇宙光直接通信のための可搬型光地上局の開発と運用-宇宙光直接通信技術-”、信学技報 IEICE Technical Report (SANE2019-105(2020-02)、電子情報通信学会、2020年2月18-19、石垣島
  7. 向井達也、他、”宇宙‐地上間光直接通信に必要な光地上局の運用手法” 第64回宇宙科学連合講演会, 2C12, 2020.
  8. Wada K, et. al., "Kerr frequency comb generation aligned with ITU-T grid for DWDM telecom applications in crystalline microresonators", The 9th Advanced Lasers and Photon Sources (ALPS2020), Yokohama, Japan (2020. 4)
  9. 平林裕貴, 他「トロイド型微小光共振器を用いた光子対生成」日本物理学会第75回年次大会、名古屋大学、16pK26-4(2020年3月)
  10. 伊東俊治, 他, “衛星間,衛星-航空機間通信へのデジタルコヒーレント光通信技術の適用”, 信学技報, SANE2015-16, 2015.
  11. Shimizu S., “Development of Fine Pointing Mechanism for Optical Inter-Satellite Communication”, Proceedings of ICSOS, 2014 P-5, 2014.

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