研究紹介

ワイヤレス化の研究

研究概要

人工衛星内部をワイヤレス化すれば、衛星ごとに一品ものとして設計していた多数の配線ケーブルやコネクタを全て省略でき、また何週間もかかる衛星試験の準備も数日で可能となるなど、衛星の開発コスト低減や短期開発に大きな寄与が期待できます。

JAXA's 2016年4月号

衛星搭載装置間の信号ネットワークのワイヤレス化の研究

衛星に搭載した装置をワイヤレスでつなぐI/Fモジュールにより、オンボードネットワークを構築します。従来、衛星に搭載する装置の共通化は図れても、装置を繋ぐケーブルやコネクタの配置は衛星ごとに異なり、これが開発コストの上昇や開発期間短縮の妨げになっていました。

搭載装置間のデータ伝送をワイヤレス化することで衛星設計の共通化を図り、効率的な衛星開発を目指し、将来的には軌道上で通信のコンフィグレーションを変更する等の自由度の高い設計が可能となります。また、ケーブルやコネクタを無くして取り付け作業を大幅に単純化すれば、ロボット等により、 軌道上で衛星の修理や機能追加をする時代が訪れると考えています。

衛星内のワイヤレス通信は、衛星構体の金属面が電波を多重反射して自分自身の信号への干渉波となります。また、強い電波で通信を行うと、衛星内の他の機器に悪影響(干渉)を与える可能性が出てきます。そこで、非常に広い周波数帯域を使う代わりに弱い電波で通信が可能な IR-UWB(Impulse Radio Ultra Wideband)方式(図1)を用いたワイヤレス通信を研究しています。


(図1)衛星の放射雑音規格(RE02)とIR-UWBの放射雑音

JAXAでは2020年度から、実際の衛星に搭載することを目的とした電気モデル(EM)の製造に着手し、各種評価耐環境性評価(振動試験、熱真空試験、EMC試験等)を実施しています(図2)。

(図2-1)ワイヤレス通信機電気モデル
(図2-2)熱真空試験風景
搭載装置への電力供給をワイヤレス化する研究

衛星をワイヤレス化するには、電源ケーブルもワイヤレス化する必要があります。しかし、通信とは異なり、衛星全体を包むような電磁場で大きな電力を伝送すると、搭載装置に深刻な影響を与えてしまいます。 そこで、送電用と受電用のアンテナコイルを近距離に配置して近傍界を用いる電力伝送を研究しています。

また、クラウドファンディングで提供いただいた資金等を活用し、Int-ball等の浮遊移動体へのワイヤレス給電を研究中です。Int-ballが吸気/排気を行うために必要なスリットとの干渉を避けてコイルを配置しつつ、各機器の小型軽量化に努めました。結果、Int-ball及び給電ステーション内部に搭載可能なサイズで必要な電力を供給可能であり、発熱も許容範囲内に収まる見込みを得ました。現在、ワイヤレス給電に伴い発生する不要な電磁界放射ノイズを低減すべく研究を行っています。(図3)

高速データ伝送のワイヤレス化の研究

データレコーダなどのデータ処理装置には何百本もの信号線があるため、取扱いが非常に難しく、試験に時間がかかっていました。そこで、D-subやSMAコネクタなどの「有線接続」から「無線接続」におきかえる技術(非接触コネクタ)の研究をしています。

本研究は、慶應義塾大学から特許5213087号の再実施許諾を受け、TLC(Transmission Line Coupler)を非接触コネクタとして使用して実施しているものです。非接触コネクタとは、Suicaや電子マネーによく似た原理で、結合器同士を近づけると信号線が接触していなくても通信ができる技術です(図4)。

(図4)非接触コネクタ部試作

この技術により従来は困難だった1Gbps~10Gbps程度の高速シリアル信号を、長距離(10m以上)伝送することが可能で、且つ広い周波数帯域でインピーダンス整合が取れるという特徴も有します。また、TLC結合器はプリント基板やフレキシブル基板に信号ラインを描くことで形成できるので、製作も簡単で扱いやすいのも特徴です。

TLCを用いた非接触コネクタを介して接続すると、送信器に複数の受信器を繋いでも、信号波の反射が起こらず波形が乱れません。この特性を利用すると、1Gbps~10Gbps以上の高速データ伝送でも、1対多接続(マルチドロップ)のネットワークを構成することができ、装置の大幅な小型化が期待できます。(図5)

(図5)非接触コネクタ(TLC)を用いたマルチドロップバスの試作

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