軌道上にある不要な人工物体のことです。使用済みあるいは故障した人工衛星、打ち上げロケットの上段、ミッション遂行中に放出した部品、爆発・衝突し発生した破片等です。
現在地上から追跡されている10㎝以上の物体で約2万個、1cm以上は50~70万個、1mm以上は1億個を超えるとされています。
地球観測衛星等が使用する高度2000km以下の低軌道、通信衛星や気象衛星等が使用する高度約36000kmの静止軌道、GPS衛星等が使用する高度約20000kmの12時間周期軌道等、よく使用される軌道が混雑しています。
特に、低軌道の高度約700~1000km付近が一番混雑しています。
宇宙機もデブリも低軌道では秒速7~8kmで地球を周回しているため、デブリが衝突する場合には相対速度は秒速10~15kmもの超高速衝突となります。これはピストルの10倍以上速い速度であり、小さなデブリでも巨大な運動エネルギーを持っています。そのため1cm以上のデブリが衝突すると宇宙機に壊滅的な被害を与えるとされ、数百μmのデブリでも、ハーネス等衝突場所によってはミッション終了につながる被害を与える可能性があります。また大きなデブリ同士が衝突すると、10cm以上のデブリが数千個発生するだけでなく、1cm級デブリ数十万個、1mm級デブリ数百~数千万個が発生することも懸念されています。
アメリカの通信衛星イリジウム33号とロシアの軍事用通信衛星コスモス2251号の衝突など、活動中の衛星がデブリに衝突したことが確認できているのは3例あります。この他に故障の原因の可能性の一つとしてデブリ衝突が疑われるものや、デブリの軌道が急に変わるなど、デブリが衝突したと思われる例も多数あります。また地上に持ち帰られた宇宙機の表面検査により、デブリの衝突痕が多数発見されています。
年 | 衝突事例 |
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1996 | フランス軍事観測衛星CERISEにアリアンロケット破片が衝突、ブーム損傷。 |
2009 | 米国の通信衛星イリジウムに使用済みロシア衛星が衝突、大破。 |
2013 | エクアドル小型衛星NEE-01 Pegasoに旧ソ連ロケット破片衝突。高速回転し衛星通信途絶。 |
年 | 衝突事例 |
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2006 | ロシア通信衛星Express-AM11故障。冷却液が噴出、衛星の姿勢が失われ機能不全に。 |
2007 | 欧州気象衛星Meteosat-8不具合。軌道が突然変化し東西方向の位置制御スラスタ破損。 |
2013 | ロシア小型技術実証衛星BLITS故障。突然スピンレート及び高度が変化。 |
推進系を搭載している人工衛星や宇宙ステーションは、地上から観測・追跡されているデブリとの衝突が予測されると軌道を変えて衝突しないようにする衝突回避運用を実施しています。また微小デブリの衝突に関しては防護設計を実施しています。 宇宙ステーションは1cmまでのデブリ衝突に耐えられるバンパーと呼ばれる構造を持っています。また人工衛星も、ハーネス(電線)等の重要な部位にデブリ防護シールドを設置するなどの工夫をしています。
またなるべくデブリを発生させないようにするために、デブリ発生防止標準を設けて宇宙機の設計段階から審査を行っています。デブリ発生防止標準では、デブリ放出・爆発の防止、ミッション終了後の軌道移動(静止軌道は約300km上昇、 低軌道は25年以内の軌道寿命にする)、地上落下の恐れの大きいデブリの制御落下等が推奨されています。
ひまわりにデブリが衝突すればデータが取得できなくなり、気象情報に影響がでることはあり得ます。その他、低軌道の観測衛星等も同様です。
GPS衛星は数がたくさんあるので、1機に衝突してもすぐに使えなくなるとことはないと思われます。またGPS衛星の軌道ではそれほどデブリは問題になっていません。
すでに軌道上にあるデブリ同士の衝突によりデブリの数が増えてしまう自己増殖のことです。ケスラーシンドロームが開始している場合、今後打ち上げを一切やめたとしてもデブリの数が増加してしまいますので、 今後スペースデブリを発生しないように気をつけるだけでは不十分で、すでに軌道上にあるデブリを除去する必要があります。ただし、宇宙機同士のような大きな衝突は今のところ数年に一度発生すると予測されている程度の頻度であり、 ある日突然衛星が次々に壊れていくようなスピードではありません。
宇宙空間にもわずかに空気があるため、比較的低い高度の物体は大気抵抗により徐々に高度が落ち、やがて大気圏突入します。その際大部分は燃え尽きますが、耐熱温度の高い材質のものなどが融け残って地上に到達することがあります。 これまで多い年では毎年数百~千個のカタログデブリが再突入しており、ロケットのタンクなど地上で数十例発見されていますが、けが人はいないとされています。
デブリ除去は世界でもまだ実施例はありませんが、今まで検討されているデブリ除去技術は、ロボットアームによる捕獲・推力方向を制御しながらの軌道変換・大量の燃料等が必要のため、1機あたり数百億円かかると言われています。 技術的にも困難ですが、技術的には可能だがコストが受け入れられないと述べている国もあります。導電性テザーであれば、燃料・大電力不要、微小推力のため取り付けが容易のため、小型衛星でも実現できると考えており、技術的、コスト的に優れていると考えています。
現在、デブリへの非協力接近技術、推進系取付技術等を研究中であり、2020年代半ばまでに、実際にデブリに接近し、その軌道を降下させるデブリ除去システム実証を世界に先駆けて実施したいと考えています。 さらに、法的課題、国際的枠組み等、非技術的検討と合わせて、2020年代半ば以降の世界的な枠組みによるデブリ除去の実用化を目指しています。これら宇宙環境保全分野で日本が世界に貢献すること、また将来国際的枠組みで実施されると想定されるデブリ除去産業で、 日本が優位に立てることを目指しています。