エネルギー伝送手段としてのレーザー光の特徴
- 装置/システムを小型化しやすい。(小規模のSSPSから徐々にスケールアップしてゆくことも可能。)
- 地上の太陽光発電設備をそのまま受光サイトとして活用できる可能性がある。
- 雲、雨、大気の影響を受ける。(地上へ到着するエネルギーが変動し得る。)
- 人(眼)に対する十分な安全配慮が必要。
レーザービーム方向制御技術
高度数百kmの低軌道から地上にエネルギーを伝送する条件では、誤差を数十cm以内に収める場合、1μrad(5.7×10-5度)の方向制御精度が、高度36000kmの静止軌道からでは、誤差を数十m以内に収める場合、0.1μrad(5.7×10-6度)の方向制御精度が必要となります。この精度を実現するため、地上サイトから宇宙機側へパイロットレーザービームを送出し、軌道上でその到来角を検知してビーコンレーザービームを打ち返すことで双方向リンクを確立し、その上でメインの高出力レーザービームにより地上へ送電を行う方式のビーム方向制御を一つの候補として検討しています。当面の方向制御精度目標として1μrad、将来的には0.1μradと設定しています。
地上付近の大気層では、レーザー光は擾乱を受けます。地上から宇宙へ向かって送出するパイロットビームは特に大きく方向が乱され、宇宙機にてパイロットビームの到来角変動として検知されます。宇宙機ではその変動をFSM(Fast Steering Mirror)と呼ばれる高速駆動する方向制御用の鏡でレーザービームの方向を変化させてキャンセルし、ビーコンビームとメインレーザービームの方向を地上の受光部へ向けて高精度に制御します。
この方式は衛星-地上間の光通信技術と類似していますが、エネルギー伝送を高効率で行うためには、メインレーザービームの大部分を受光して電力に変換する必要があり、また通信と異なり高出力のレーザーを用いるため、宇宙機の送光用の光学系の設計には特別な配慮が必要です。
レーザー光源、受光部
現時点では、レーザー光源として、近年進歩の著しいファイバーレーザーを有力候補と考えています。溶接・切断等の加工機械用として広く使われ、波長1070nm(近赤外域)付近で10kW程度の出力のものが市場で入手できます。宇宙環境で使用できるよう、材料や熱制御についての検討を進めていくほか、将来的には、出力、効率をさらに高める必要があります。
地上に置かれる受光部では、レーザー光を電力に高効率に変換する必要があります。SSPS研究チームでは、InGaAs等の材料をベースとした光電変換素子を用い、上記波長(1070nm)のレーザー光を高効率変換するための研究開発を進めています。
レーザー無線エネルギー伝送地上実験
SSPS研究チームでは、レーザー光による無線エネルギー伝送の地上実験を進めています。高精度のビーム方向制御を大気擾乱の影響下で確立させることが目的です。
2012年から2013年にかけて、SSPS研究チームが保有しているレーザー伝送実験施設において、水平方向500mの伝送実験を行いました。大気擾乱の少ない状況では、1μradのビーム方向制御を達成しましたが、日射が強く地上付近の大気擾乱が悪化する条件の下では、レーザー光の到来角変動を充分に制御できない結果となりました。
2016年5~6月、L-SSPS(宇宙から地上)と類似の経路条件での実験として、高さ約200mの塔の上から、下(地上)方向へのレーザー光による無線エネルギー伝送を行いました。宇宙から地上への伝送を模擬した経路において、高精度に方向制御されたレーザービームによる電力伝送の実現性を世界で初めて確認しました。地上へ向け照射されたレーザーエネルギーは350W(最大)、ビーム方向制御精度は約2.5μradでした。
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技術的課題への今後の取り組み
今後、レーザー無線エネルギー伝送技術の分野で取り組みが必要な技術的課題には、以下のようなものがあります。
- 軌道上で使用できる高出力・高ビーム品質レーザーの実現
- 太陽光エネルギー/電力からレーザー光への変換効率の向上
- レーザー光から電力等への変換効率の向上
- レーザービーム伝搬制御(方向、強度分布)の精度向上
- 天候によるエネルギー伝送効率低下・遮断の回避手法(天候予測、マルチサイト化、等)