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プロジェクト等観測ロケット S-520-RD1による
超音速燃焼飛行試験

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、観測ロケット S-520-RD1による超音速燃焼飛行試験を実施します。

極超音速機の研究

JAXAでは、極超音速(音速の5~6倍以上の速度)でも使用可能な空気吸い込みエンジン(スクラムジェットエンジン:ロケットエンジンが搭載した酸素と燃料を燃焼させるのに対し、大気中の酸素と搭載した燃料を燃焼させるもの)の研究を実施しています。

空気吸い込みエンジンは、搭載不要となった酸素の代わりにより多くの貨物を搭載できることから、将来の宇宙往還機や大陸間高速輸送機への適用が期待されています。

空気吸い込みエンジン搭載機の一例
ラムジェットエンジン試験設備(左)とエンジン(破線内)の様子
空気吸い込み式エンジン模式図

飛行試験の目的

空気吸い込みエンジンの地上の風洞試験では、①複雑な流路により生じる気流の乱れ強さの違いと②気流加温に伴う異ガスの混入、により実飛行との間で空力加熱やエンジンの特性に差異が生じます(図1)。このため、JAXAは空気吸い込みエンジンについて、地上での風洞試験結果を補正して実飛行状態における特性を予測する解析ツールを構築することを目標とする研究を実施しています。

本飛行試験は、実飛行で燃焼データ等を取得し解析ツールの評価を行うために実施します。

解析ツールを構築できると、空気吸い込みエンジンを搭載する将来の飛翔体実現に必要となる飛行試験回数を減らすことができ、開発コストを低減できます。本飛行試験によって、風洞試験結果に加えて実飛行中のデータを取得し、解析ツールの検証を行うことが目的です。

図1 地上の風洞試験設備での乱れと異ガス混入の例

装置概要

S-520-RD1号機は、観測ロケットS-520の1段部分と飛行試験用の供試体で構成され、全長約9.15m、直径約0.52m、全備質量約2.6トンです(図2)。

図2 S-520-RD1号機

飛行試験用の供試体は長さ約1.8m、直径約0.52m、質量は約300kgです。供試体内部の空気吸い込みエンジン内に空気を取り込むとともに、点火用の水素と燃料のエチレンをエンジン内に噴射して燃焼させ、データを取得します。

飛行試験の内容

観測ロケットS-520の1段モータによって打ち上げられた供試体は、1段モータから分離した後にラムライン制御部を用いて姿勢を変更し、供試体前方を進行方向として降下します。供試体は降下中に極超音速(マッハ数約5.5)に達し、エンジン外部に生じる空力加熱と、エンジン内部の超音速燃焼に関するデータの取得を行います(図3)。取得したデータは電波によって地上局へ送信されます。

極超音速で飛行すると、入口部の気流は極超音速ですが、それを空気吸込口で減速して圧力(燃焼圧力)を高めます。
 減速するものの、燃焼する部分での気流のマッハ数は1を超えるため「超音速燃焼」と呼んでいます。

図3 S-520-RD1号機の飛行試験の内容

飛行試験結果

S-520-RD1は、2022年7月24日午前5時00分に内之浦宇宙空間観測所より打上げました。
ロケットおよび飛行試験供試体は想定の軌道を飛行し、打上げ412秒後に内之浦南海海上の予定の落下円内に着水しました。

飛行試験供試体は打上げにより高度約168kmに達した後、降下中に最大マッハ数約5.8の極超音速で飛行しました。
飛行中、空力加熱と3秒超の超音速燃焼に関するデータ(燃焼器の温度、圧力)を取得し、実験は成功しました。

本試験は、日本で初めて実飛行において超音速燃焼を達成した試験となりました。

今後は、今回の飛行に近い条件を地上設備(風洞)で再現して燃焼試験を実施、飛行データと風洞データの比較対比を行います。

S-520-RD1
S-520-RD1打上げ(2022年7月24日内之浦宇宙空間観測所)

付記

本研究は、防衛装備庁安全保障技術研究推進制度にて平成29年度に採択された委託研究「極超音速飛行に向けた、流体・燃焼の基盤的研究」を受けたものです。