JAXA研究開発部門

革新的衛星技術実証1号機 実証テーマ

太陽電池パドルの大幅な小型軽量化で宇宙産業の活性化を狙う

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 研究開発部門第一研究ユニット

今泉 充  研究領域主幹
住田 泰史 主任研究開発員

近年、衛星の高機能化に伴い、大電力化のために太陽電池パネルの軽量化と高出力化が求められている。これに応えるために、従来の1/3という大幅軽量化を実現する「軽量太陽電池パドル」の開発を率いた JAXAの今泉充氏、住田泰史氏に、革新的衛星技術実証1号機での実証に対する期待を聞いた。

- 今泉さん、住田さんの研究内容について教えてください。

今泉 JAXAでは太陽電池の研究開発を行っています。私は1999年にJAXAの前身である旧NASDA(宇宙開発事業団)に入社して以来、太陽電池そのものの性能向上について研究してきました。 宇宙で使用する場合、放射線の影響をかなり受けて劣化しますので、その耐性を上げるにはどうすればいいかといった研究をしてきました。 最近は、今回の太陽電池パドルの開発のように、研究開発の守備範囲を広げています。
住田 私は、太陽電池を宇宙で使うためには、どういう試験をしてどういう評価をしたらいいか、あるいはどういうアプリケーションを作れば多くの人に使ってもらえるか、という出口側の研究開発を行っています。

- 「軽量太陽電池パドル」とは、具体的にどのようなものですか。

今泉 まず我々は30%以上の変換効率を有する「薄膜3接合太陽電池セルアレイシート」を開発しました。この薄くて軽くて効率もいい太陽電池セルを今までの重くて厚いアルミハニカムパネルに貼り付けただけでは あまりメリットがないということで、さらに開発したのが出力質量比150w/kgの性能をもつ軽量太陽電池パドルです。薄膜3接合太陽電池セルアレイシート、フレーム型パネル、展開用ヒンジ、保持解放機構で構成されています。 軽量化を実現するために、これらすべての部品を新規開発しました。今回は、この機構を軌道上で展開実験することを計画しています。
住田 今回搭載する軽量太陽電池パドルは、太陽電池セルアレイシートを障子紙のようにフレームパネルに貼り付けたパネル5枚で構成されています。 この5枚が折りたたんで格納してあり、宇宙空間で展開ヒンジにより最外層からパネルを一枚ずつ順に展開させていく機構になっています。この機構が4タイプあり、全タイプの軌道上動作検証をするために必要な5枚の搭載を計画しました。
今回の軌道上ミッションでは、「軽量太陽電池パドルが正常に展開完了するか」、「パドル展開後に正常に太陽電池からの電力が供給されるか」の2項目について実証します。パドルが正常に展開完了したかどうかは、 各パネルに搭載した展開モニタによって確認します。また、衛星本体側搭載のカメラによる静止画撮影と、ミッション機器である他のカメラによる展開の動画撮影でも確認することを計画しています。
今泉 今回の軽量太陽電池パドルはミッション機器のため、衛星バスシステムに電力は供給しませんが、パドル展開後に正常に太陽電池の発生電力が供給されるかをモニタするために、計90枚の薄膜3接合太陽電池セルをパドルに搭載し、 展開試験終了後に太陽電池の出力をモニタしてパドル上の配線など電気計装系を含めた健全性も検証します。
  • <従来の太陽電池パネル>

  • <今回実証する薄膜太陽電池パネル>

- 本プログラムへの応募動機と、実証を通じて期待する結果についてお聞かせください。

住田 宇宙機における電力需要は高くなっていて、オール電化衛星など大電力が求められるミッションが増えています。また、小型衛星では太陽電池パドルの面積が限られてしまうため、太陽電池の軽量化と高出力化が求められてきました。 我々は約10年をかけて軽量で薄型の太陽電池セル、および重さ・厚さが半分のパドルを開発してきました。しかし、いくら地上試験を行っても、本当に軌道上で動作するかどうかは実証してみなければ分かりませんし、ユーザーさんも採用を検討して頂けません。 今回、いいタイミングで本プログラムの話があったので応募しました。
今泉 開発当初から誰にでも使ってもらえるものを作りたいと思っていました。できるだけ短期に付加価値が高くて実用可能なものを作りたいという思いから、太陽電池の開発とほぼ同時期に応用先である軽量パドルの開発も開始しました。 普通ではなかなか認められない事ですが、結果的には正解だったと思います。太陽電池は薄型化した分、割れとの戦いでした。寿命、信頼性が確認され、太陽電池ができて、軽量パドルと組み合わせるまでに5年以上かかりました。 さらに現在の形に落ち着くまでに4回ほどパドルの設計を変え、結果的には開発から10年かかりました。
日本の宇宙産業を活性化させるものを作りたい。しかし良いものを作っただけではだめで、実証して初めて信頼が得られます。今回の実証もそのためなのです。

- 1号機の打上げが近づいてきましたが、現在のご心境は。

住田 地上試験は全て問題なく終わりました。ただ地上で成功したからといって宇宙でも同じとは限りません。そうした緊張感はありますが、気持ち的にはひと段落しているところです。
今泉 今回は実証ということでサイズは実用のパドルより小さいのですが、地上試験が順調に終了し、一安心しているところです。

- このプログラムへの今後の期待をお聞かせください。

今泉 こうした実証機会は新しいものを作る研究者にとって、非常に貴重です。まずは1号機の実証が成功することで、次につながっていって欲しいと思います。さらに、将来的には宇宙に限らず、飛行機や車など世界中で広く、 この薄膜太陽電池が使われるようになって欲しいというのが、我々の夢です。
住田 今回の1号機は公募から打上げまでの期間が短く、実証形態の検討と開発の時間が限られていて大変でしたが、今後はテーマを絞って2号機、3号機と続けていけば、例えば2号機に間に合わなくても、 次の3号機に向けて準備を進める、ということができるのではないかと思います。ぜひ、こうした新規開発品の実証機会が今後も保たれる事を願っています。

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