JAXA研究開発部門

革新的衛星技術実証1号機 実証テーマ

高分解能スペクトル観測技術を確立し、農林水産業のスマート化に貢献する

東北大学 大学院 工学研究科 航空宇宙工学専攻

桒原 聡文 准教授

超小型衛星から高分解能のマルチスペクトルカメラで地球表面を観測し、農林水産業の発展に役立てたい——。 東北大学の桒原聡文准教授に、革新的衛星技術実証プログラムに応募された実証テーマの内容と目的、期待について聞いた。

- 桒原先生の研究内容を教えてください。

人工衛星工学という分野で主に超小型衛星の研究開発を行っています。人工衛星というのはいわば高機能の完全自立型ロボットであり、 宇宙空間で運用するためには通信、電気電子情報、構造設計、熱設計、姿勢制御など幅広い分野の技術を必要とします。 その中でも特に姿勢制御系に主軸を置きながら、それらの技術をいかに衛星としてまとめ上げるかというシステムインテグレーションの研究に力を入れています。

- 本プログラムにおける実証テーマの内容を教えてください。

衛星の高精度姿勢制御技術と、それに基づく高分解能マルチスペクトル観測技術の実証です。北海道大学との共同プロジェクトとなっています。 このマルチスペクトル観測技術では約5mの空間分解能で地球表面を観測することができるのですが、秒速約8kmで通過する人工衛星から観測地点をさまざまな色で 撮影しようとすると、一定時間、目標対象物に向けて搭載カメラを指向し続けるという技術が必要になります。要するに首振りの技術ですね。 そのためには、非常に高精度な衛星の姿勢制御技術が必要になるというわけです。

- 高分解能マルチスペクトルカメラによって何が撮影できるのですか?

5m分解能のカメラで地上を見ると、田んぼや畑の様子が細かく識別できます。そうした高分解能による観測と併せて、今回はマルチスペクトル観測といって、 さまざまな色で対象物を観測することにより、その波長に隠れている情報を抽出することができます。たとえば、水田の稲が枯れていないか、栄養は足りているのか、病虫害が 発生していないかといった農作物の発育状態や健康状態が、波長を見ることで観測できるのです。農作物の状態が空から把握できれば、適切な地域に適切な量の水や肥料、 農薬などを使うことができ、農業の最適化がはかれます。
その他にも、地表の植生や海洋のプランクトン分布などを観測することによって、林業や漁業での活用も可能です。今回、超小型衛星の高分解能マルチスペクトル観測技術を実現 することで、農林水産業のスマート化に貢献したいと考えています。

- 今回のミッションで特徴的な技術はありますか?

観測装置に液晶可変波長フィルタを用いていることです。これまでは使用するフィルタによって観測波長帯が決まっていましたが、この液晶可変波長フィルタは、 打上げた後に透過波長帯を電気的に制御することができるという、非常に画期的な技術です。観測できる波長帯は630色(バンド)あり、たとえば稲の観測をしたい場合は 稲に関連のある色を、海洋観測をしたい場合は海洋の色を選んで観測します。
このように、観測したい対象に応じて使用する観測波長帯を電気的に選択できるということで、非常にアプリケーション範囲が広い観測技術であるといえます。

- 本プログラムに応募された動機や理由は何でしょうか?

超小型衛星の打上げ機会を提供していただけるということで応募しました。これまで私たちはH-IIAロケットへの相乗りやISSからの放出、国外のロケットなどによる 打上げを何度か経験してきましたが、今回のイプシロンは小型ロケットということで、今後頻繁に打上げ機会が回ってくることが期待できます。 ここで実績を築くことは私たちにとって重要な一歩となるので、ぜひチャレンジしたいという気持ちがありました。

- JAXAの対応はいかがだったでしょうか。

今回、超小型衛星にとって最も使いやすい条件を選びながら調整を進めていただきました。たとえば分離衝撃が従来のロケットよりも低減されたり、打上げの環境条件がマイルドだったり、 衛星とロケットのインターフェースの調整においてユーザーの声を柔軟に取り入れていただいたと思います。
また、私たちにとって一番ネックである安全審査に関しても、親身になって対応していただけるのでありがたいですね。応募側としてもスキルの向上につながります。

- 今回の実証を通じて、どのような成果を期待していますか?

一つは、課題として掲げた技術を確実に実証して技術レベルを高めること。特に今回投入される予定の高度約500km太陽同期軌道における運用実績を積み上げたいです。
もう一つは、衛星からの観測データを地上での観測データと比較検証することで衛星データの校正を行い、実際に使えるところまで持っていくことです。そのために、ドローンによる地表観測データなども用いて 有効なデータを蓄積したいと考えています。

- 実証後の展望について教えてください。

小型衛星は大型衛星の1/10から1/100の価格で開発できることから、同じ予算で打上げる個数を増やせるのが利点です。個数が増えれば観測頻度も上がり、各衛星が協働することで 地球規模での高分解能スペクトル観測が可能になります。そうして取得したデータを使って、将来的には農業や漁業の関係者に向けて情報サービスを提供したいと考えています。 すでにベンチャーの立ち上げも開始し、粛々と準備を進めています。スマートフォンなどIT技術を活用して容易に情報にアクセスできるシステムをつくり、農業改革、漁業改革を行いたいですね。
もう一つ、今回のミッションで目標に掲げているのが、海外の衛星利用市場の拡大です。私たちの研究グループでは、フィリピンやベトナムからの受託研究として学生の教育や衛星の開発・打上げをサポートしています。 そうした枠組みを使って、アジアへの小型衛星の利用を促進していきたいと考えています。

- 1号機の打上げに向けた期待と今後のプログラムへの期待をお聞かせください。

これだけ多くの超小型衛星のみでロケットを打ち上げるのは日本で初めてであり、技術的にはとても挑戦的な試みだと思います。また、超小型衛星の研究者にとってイプシロンロケットは魅力的です。 今後のプログラムの成功のためにも素晴らしい打上げと完璧な軌道投入を期待しています。

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