JAXA研究開発部門

革新的衛星技術実証1号機 実証テーマ

深層学習を用いた画像認識技術と低コストのスタートラッカーで防災や気象、科学など幅広い分野での活用を目指す

東京工業大学 理学院 物理学系

谷津 陽一 助教

東京工業大学の谷津助教のミッションは、大きく2つ。深層学習の手法を画像認識に活用し、衛星が撮影した画像から陸地パターンを識別する技術を衛星の姿勢センサとして活用すること。 それから、民生品でつくったスタートラッカーが動くかどうかを確認することだ。幅広い分野に応用が可能なこれらの技術により、日本の宇宙産業の発展に加え、天文学の発展にも貢献することが期待される。

- 先生のご研究について教えてください。

私は宇宙から放射されるX線、γ線の観測的研究を行っています。2015年に打ち上げられたX線観測衛星「ひとみ」でも、装置の開発と衛星の打ち上げ・運用などを行いました。
X線、γ線といった放射線は地上からは観測できないため、歴史的に飛翔体開発とリンクして進んできました。我々も2003年から工学部の松永研究室とともに超小型衛星の開発に取り組み、これまでに3機の衛星を開発しました。 2014年にはγ線バーストという宇宙最大規模の爆発現象を観測しようと、50kgの衛星「TSUBAME」を開発。残念ながら失敗に終わりましたが、我々の挑戦が世界の天文学者に与えたインパクトは大きく、 これをモデルケースとして超小型衛星を用いた科学ミッションを行おうという動きが世界中に出てきています。

- 今回のテーマ「深層学習を応用した革新的地球センサ・スタートラッカーの開発」は、どのようなものでしょうか。

今回は2つの柱があります。1つは深層学習、もう1つは民生品を用いた低コストのスタートラッカー(姿勢制御装置)の開発です。
超小型衛星で観測を行っていて痛感するのは、通信がミッションのボトルネックになっているということです。今回、軌道上で画像処理を行うことで衛星のあり方を変えたいと考えています。 端末側で画像処理を行えれば、密に観測し、意味のあるデータだけを転送すればよくなります。これにより、必要なときに重点観測を行うなど、高度な自律運用も実現できます。この画像処理の精度を上げる手法として深層学習を導入しています。
今回はそれらの技術のデモンストレーションとして、地球を撮影して画像から海と陸を識別します。それができれば陸地のパターンから衛星の向きがかわかるのではないかと考えています。
また、星を観測するときには姿勢安定度が非常に重要であり、それをスタートラッカーで安定させるのですが、日本国内では超小型衛星用のコンポーネントはほとんど売られていないのです。 日本が衛星を産業としてやっていくならば必要な技術ですので、国内でつくる技術を開発したい、しかもそれを民生品で安くつくりたいと考えました。

- 本プログラムへの応募動機は。

学内で自力で衛星を開発できるのがこのチームの強みですが、自分たちで衛星バスをつくるリスクが高いこともわかっています。ですからバスと通信が提供されるのであれば、より革新的な実験に注力できると考えました。 今回は電力があるので計算量に制限がありませんし、画像も多数取得でき、姿勢もほぼ保証されます。画像認識技術や姿勢センサの実証にもってこいの機会だと考えました。

- 他の実証機会もある中で、今回のプログラムを選んだ理由はどのようなものでしょうか。

超小型衛星ではバス開発が最大のリスクであり、そこを提供していただける機会はなかなかありませんので、非常に魅力的な機会だと思ったのです。

- 同プログラムに関するこれまでのJAXAのサポートはいかがですか。

過去に私が関わった衛星の失敗は、マネジメントに起因する部分が少なくなかったと感じています。今回JAXAの方式でモノづくりを行い、どのようにマネジメントが機能しているのかを学ばせていただいています。 また、担当者の方々には文書作成や内容に関して、細かくチェックや調整をしていただけて感謝しています。

- 1号機の打ち上げが近づいてきましたが、現在のご心境は。

感無量です。実は今回のプライムコントラクターであるアクセルスペースは、学生時代から超小型衛星を一緒に開発していた仲間たちの会社なんです。 当時、メーカーから「あんなの絶対動くわけがない」と言われていましたが、超小型衛星チームから生まれた会社がJAXAから衛星製造を受注した、それを我がことのように嬉しく感じています。 また、我々自身もミッションの提案者としてそこに載るのもとても嬉しいことです。

- 革新的衛星技術実証1号機の打上げに向けた期待をお聞かせください。

深層学習で画像から陸地を識別し、それを姿勢センサとして活用すること。それから安価な部品で組み立てたスタートラッカーが動くかどうかを確認すること。その2つが実証できるとよいですね。
現在はFM(フライトモデル)ハードウェアの最終組み上げ・衛星システムへの引渡しが完了し、ソフトウェアも研究チーム総出でチューニングしているところです。少しでも良いものができるようにギリギリまで開発を行っていきます。 装置が壊れず無事に動くよう、ロケットがあまり激しく揺れなければよいのですが。

- 実証後の展望は。

ここで得られた成果を事業化して、日本の宇宙産業の発展に役立てたいと考えています。今回、ソフト開発では東工大ベンチャーのStrayCat’s Labに協力を頂いています。 まだ小さいですが腕利きが揃う衛星開発ベンチャーで、スタートラッカーのアルゴリズムや試験ノウハウ、場合によっては実機開発も含めて事業化を検討してもらっています。
加えて、我々は2020年代前半に、広視野を紫外線でサーベイする超小型観測衛星を世界で初めて打ち上げる予定です。重力波源と考えられている中性子星-中性子星連星が合体した瞬間に何が起こっているのかを、 いちはやく紫外線で見ることが物理過程を解明するのに重要な役割を持つと考えています。他にも超新星の紫外線閃光や超大質量ブラックホール周辺での恒星の潮汐破壊現象も重要な観測ターゲットになります。 これらはいずれも「突発天体」といって、いつ・どこに現れるか分からない短時間で急激に暗くなってしまう現象で、そのために今までは知る手段がほとんどなかったのです。
こういった短時間天文現象を探る学問が最近では「時間領域天文学」として注目を集めており、天文学のあたらしいフロンティアになっています。 本テーマは衛星の高精度姿勢制御、観測データの衛星上リアルタイム解析、そして自律的観測運用という、時間領域天文学の実現に不可欠な技術に直結しています。近いうちに天文学の成果にも繋げていきたいと考えています。

- JAXAの革新的衛星技術実証プログラムに対して、今後の期待をお聞かせください。

1号機で実証する画像認識は、防災や防衛、気象、科学、何にでも応用できる技術です。デブリ捕獲などの宇宙ロボットへの応用も可能でしょう。ぜひ成功させて今後につなげていきたいです。
革新的衛星技術実証プログラムについては、研究テーマに注力できるという点で最高の企画である一方、事業化計画が必須である点は研究者にはハードルが高いところでもあります。 科学者のアイディアが新技術開発につながる可能性も高いので、うまく科学者とメーカーをタイアップさせて革新的な宇宙技術を生み出していくことを期待しています。

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