JAXA研究開発部門

革新的衛星技術実証1号機 実証テーマ

信頼性の高さを宇宙をつかって証明したい 自動車・医療分野等への適用を目指す
革新的FPGA

日本電気株式会社

杉林 直彦 システムプラットフォーム研究所 技術主幹
宮村 信 システムプラットフォーム研究所 主任研究員

集積回路のスイッチングの部分に、電荷ではなく金属原子を用いたNECの「ナノブリッジFPGA」。 これは金属原子を用いているため小型で電力消費量が低く、放射線の影響も受けにくいという画期的なFPGAである。 宇宙実証によりナノブリッジFPGAの信頼性を評価し、宇宙機はもちろん自動車や医療分野など、より高い信頼性が求められる分野への応用展開を目指すという。 同社の杉林氏、宮村氏に、実証プログラムへの期待や実証後の展望を伺った。

- 研究内容について教えてください。

杉林 NEC筑波研究所は当社が半導体事業を行っていたときに設立された研究所で、以来、半導体関連の材料やデバイスの開発に取り組んできました。 現在も物理、化学の知見や材料、デバイス技術を生かして、システムプラットフォーム技術を効果的に社会とつなげるためのハードウェア技術の研究を行っています。

- 今回の実証テーマである「革新的FPGA」はどのようなものですか。

杉林 FPGAとはユーザーが用途に合わせて機能を組み替えられる集積回路です。現在の多くのFPGAはメモリが回路情報を保持するために電荷情報を用いていますが、 当社はより高性能なFPGAの開発を目指し、2001年に理化学研究所の青野正和氏が原理を実証した「原子スイッチ」に着目しました。 「原子スイッチ」とは金属原子を動かすことで配線をスイッチングする技術です。原子を用いるので大量に配線されている回路でも大幅に小型化できると考えられましたし、 小型化により低消費電力化もできると期待されました。
宮村 当社は2003年から原子スイッチをチップの中で動かす実験をスタートさせ、原子スイッチにより回路情報を保持するFPGAを開発しました。 これを「ナノブリッジ」と名付け、商標登録も行っています。同等の処理能力を持つFPGAと比較して、このFPGAのサイズは1/3で、電力効率は10倍向上しています。

- 本プログラムへの応募動機と、期待する成果は。

杉林 小型で低コストのナノブリッジFPGAが完成しても、従来のFPGAからの置き換えがなかなか進まないという状況がありました。 多少のコストメリットよりも、全く新しい部品に変えるリスクを重視するメーカーが多かったのです。 それであれば、まずはナノブリッジFPGAのニーズがより高い分野で使っていただこう、と考えました。
ナノブリッジFPGAの大きな特徴として、高い耐放射線性があります。これまでのFPGAは放射線が入射すると電荷が乱されて動作エラーが起こることがありましたが、 ナノブリッジは金属なので放射線の影響を受けにくく、素子自身のエラー発生率は従来の1/100以下に抑えられています。 これは宇宙において必要な特性なのではないかと考え、当社の宇宙システム事業部およびNECスペーステクノロジとも相談して、 宇宙用途も想定して実用化を進めていくことになりました。
ナノブリッジFPGAの耐放射線性の高さが軌道上で実証されれば、宇宙でもエラーを起こさない信頼性の高い製品として国際的にアピールできると期待しています。
宮村 これまでも放射線によるエラーを発生させない回路はありましたが、それは書換え不可能なタイプに限られていました。 書換えできなければ打上げ前に地上試験でプログラムにバグが見つかっても修正できませんし、打ち上げ後にミッションが変更になった場合でも対応は不可能です。 書換え可能で、かつ放射線の影響を受けにくい回路のニーズは高いと考えられ、エラー発生率の低さを実証できる機会を探していたのです。 これで実証されればお客様に実際に試してもらえるようになるでしょう。

- 今回のプログラムを選んだ理由はどのようなものでしょうか。

杉林 部品単位で実証ができる機会であったことが大きいです。この部品の実証は、国産の宇宙用部品を 育てていこうというプログラムの趣旨にも合致すると考えました。

- これまでのJAXAのサポートはいかがでしたか。

宮村 この1年半で何十回も打ち合わせを行い、試験機の評価に深夜まで立ち会って頂いたこともありました。 我々の部品をどのように使えるモジュールにしていくかということに始まり、非常に多くのサポートをいただきました。 実装してくださる方々との二人三脚でここまでもってくることができたと思っています。
今回はJAXAで開発するカメラに我々の部品を組み込んで小型実証衛星1号機に搭載します。 今後も衛星本体に組み込んだ最終試験や射場での準備作業等打上げまでタイトなスケジュールが続きますが、開発段階から納品後の試験まで、 また、部品のスペックの考え方から書類作成まで、JAXAの方にはトータルにサポートしていただけて有難かったです。

- 1号機の打上げが近づいてきました。現在のご心境をお聞かせください。

宮村 「モジュールとして実現したいこと」と「部品の信頼性」の両立が難しく、実装までに非常に長い時間がかかりました。 打上げの日を心待ちにしています。
杉林 ふだん宇宙事業を行っていない我々としては、調整期間にはここまでやるのかと大変な思いをすることも多かったのですが、 それもクリアした今は「無事に打ち上ってほしい」の一言につきますね。

- 革新的技術実証1号機に対して、どのような期待をお持ちですか。

杉林 打上げ後に軌道上でナノブリッジFPGAを動作させたときのデータを解析し、きちんと運用できているかを確認するのがとても楽しみです。 エラーを起こすことなく運用できることを期待しています。
宮村 これまで一歩一歩進めてようやく実装に至った部品が、打上げによっていよいよ軌道上で信頼性を評価できる段階に進めるわけです。 成果が上がることを心待ちにしています。

- 実証後の展望はどのようなものでしょうか。

杉林 現在、FPGAには国産部品がありません。この実証を経て国産化を実現し、日本の宇宙産業に貢献したいと考えています。 また、この実証を足がかりに、自動車や医療など高い信頼性を要求される分野に進出していきたいですし、民生品への展開にも注力していきたいと考えています。

- JAXAの革新的衛星技術実証プログラムの今後に対する期待をお聞かせください。

杉林 宇宙実証を経た技術や部品を、宇宙産業だけでなく、他の部品技術や基礎技術として育てていきたい企業は多々あるでしょう。 今回のような衛星をつくらず、部品やコンポーネントだけでも実証できるプログラムは、企業が日本の宇宙産業に、また産業全体に貢献できる有効な機会となると思います。 ぜひ今後も継続していただけるようお願いいたします。

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