研究紹介

導電性テザー(EDT)

光学シミュレータ

図1 導電性テザー(EDT)の原理

誘導起電力を利用して電流を流し、その電流と地磁場との干渉で発生するローレンツ力で高度を下げることができます。逆向きに電流を流せば、高度を上げることもできます。

デブリが多数ある混雑した軌道(800kmから1400km)から軌道を降下させるには大きなエネルギーが必要で、従来型の推進系では大量の燃料が必要です。また化学推進等のように大きな推力の場合、重心を考慮して強固に取り付ける必要があり、また軌道変換中も方向制御等が必要で運用が複雑になります。そのため、高効率の推進系として、導電性テザー(Electrodynamic Tether, EDT)について研究しています。

テザーとは「ひも」のことです。宇宙機から伸展された導電性のテザーには、地磁場を横切って地球の周りを周回することにより誘導起電力が生じます。そこで、テザーの両端で地球周りのプラズマと電子をやり取りさえさせてやれば、回路が構成されテザーに電流が流れます。テザーに電流が流れると、地磁場との干渉でテザーにローレンツ力が発生します。(図1)

このローレンツ力は速度方向と逆向きであり、宇宙機の軌道を降下させることが可能です。また逆に、搭載電源系を用いて誘導起電力に打ち勝って逆向きに電流を流せば、そのときのローレンツ力はシステムを加速させる向きであり、軌道高度を上昇させることができます。このようにEDTは、燃料や大きな電力を使うことなく軌道変換が可能です。また推力が小さいので、デブリに取り付けるのが従来型の推進系に比べると比較的容易というのもメリットです。推力が小さいのでゆっくりデブリの高度を下げていくことになりますが、除去しなくてはいけないデブリを数~10kmのEDTで一年以内程度で再突入させることが可能と考えられています。

これまで、詳細数値シミュレーションによる導電性テザーによる軌道変換能力の評価や、電子を放出するための電子源などの要素機器の研究開発を行ってきました。

これまでの要素機器の研究成果を軌道上で検証するために、こうのとり6号機を用いた軌道上実験「HTV搭載導電性テザー実証実験」(Kounotori Integrated Tether Experiments, KITE)を行います。

HTV搭載導電性テザーの実証実験(KITE)の詳細はこちら



参考文献

  • 第7回スペースデブリワークショップ講演資料集、2017.
  • 大川恭志, 河本聡美: 地球磁場を利用したスペースデブリ除去技術の研究," 応用物理, 第85巻, 第10号, 2016.
  • Ohkawa, Y., Kawamoto, S., et al.: Preparation for On-Orbit Demonstration of Electrodynamic Tether on HTV, Transactions of JSASS, Aerospace Technology Japan, Vol.14, No. ists30, 2016.
  • Kawamoto, S., Makida, T., Sasaki, F., Ohkawa, Y. and Nishida, S.: Precise Numerical Simulations of Electrodynamic Tethers for an Active Debris Removal System, Acta Astronautica 59 (2006) pp.139-148.
  • Kashihara, K., Qu, D., et al.: Ground Experiments and Computer Simulations of Interaction between Bare Tether and Plasma, IEEE Transactions on Plasma Science, 2008.


詳細数値シミュレーション

導電性テザーの推力などを評価するために、テザーの重量や柔軟性を考慮するための離散質点モデルを使用し、またプラズマモデルや磁場モデルなどを考慮した詳細数値シミュレーションを実施しています。発生する推力は、磁場やプラズマ密度によって変動するため、軌道高度や軌道傾斜角によって異なりますが、除去しなくてはならない太陽同期軌道の大型観測衛星や混雑した軌道にある宇宙機は、数~10km程度のEDTで、1年以内程度で大気圏に再突入できると考えています。



図1
図1 離散質点モデル


図2
図2 高度800kmの太陽同期軌道にある3.4トンのデブリに
10kmのEDTを取り付けたときの軌道変化


電子放出源

導電性テザーに電流を流して推力を得るためには、テザーと周辺プラズマとの間で電流ループを形成しなければなりません。このためテザー(導電部)の両端には、周辺プラズマとの間で電子の授受を行うプラズマコンタクタが必要となります。現在有力と考えられているプラズマコンタクタの候補としては、電子を放出するための装置(電子エミッタ)と電子を収集するための装置(電子コレクタ)それぞれについて以下を挙げることができます。

  • 電子エミッタ:ホローカソード、電界放出型カソード
  • 電子コレクタ:ホローカソード、ベアテザー(被覆無し導線)
 

これらのプラズマコンタクタには、以下のような特徴があります。

プラズマコンタクタ名 特徴
ホローカソード 少量の作動ガスを連続的に供給することで、自身の内部及び近傍に比較的濃いプラズマを生成し、それを介して周辺プラズマとの効率的な電子授受を行います。電子エミッタと電子コレクタの両方の働きをできる特徴があります。
電界放出型カソード 微細加工等により形成された微小ギャップの間に高電圧を印加することで、導体表面から電子を電界放出させます。ヒータや作動ガスが不要です。
ベアテザー 絶縁被覆の無いテザー(ベアテザー)を用いることで、周辺プラズマから効率的に電子電流を収集します。作動ガスが不要です。

これらのコンタクタのうち、デブリ除去のような小型軽量が要求されるシステムに最も適当と考えられるのは、電界放出型カソードとベアテザーの組み合わせです。この場合、作動ガスが一切不要であるため、タンクやバルブ等の無い簡素で信頼性の高いシステムを構築できるものと期待できます。

小型軽量の電子エミッタとして、電界放出型カソードに関する研究を行っています。電界放出型カソードには、スピント型やトリプルジャンクション型などいくつかのタイプがありますが、本研究では、カーボンナノチューブ(CNT)を利用したタイプを採用しています。CNTは近年様々な分野で利用されており、電界放出型カソードのエミッタ材料としても注目されています。CNTの低真空領域での耐久性は、従来のスピント型等に比較して高いことが報告されており、低軌道上での長時間安定動作が期待できます。

CNTを利用した電界放出型カソードの動作イメージを図1に示します。このカソードでは、CNT層を表面に形成した基材に対してゲート電極により電圧をかけることで、電界放出の原理によりCNTから電子が放出されます。CNTは文字通りナノスケールのサイズであるため、その先端で電界集中が起きて、電子の放出が容易となります。現在研究を進めている電界放出型カソードの外観を図2に、その電子放出特性の一例を図3に示します。本カソードに使用しているCNTは、アーク放電法により製造されたMulti-walled nano-tubesと呼ばれるCNTであり、他のタイプのCNTと比較して耐久性が高いと考えられています。図3より、本カソードは、高い引出効率(損失電流が少ない)で安定した電子放出特性を有することが確認できます。



図1
図1 カーボンナノチューブ(CNT)を利用した
電界放出型カソードの動作イメージ
図2
図2 研究中の電界放出型カソードの外観


図3
図3 電界放出型カソードの電子放出特性の一例


参考文献

  • Y. Ohkawa, T. Okumura, et al.: Field Emission Cathodes for an Electrodynamic Tether Experiment on the H-II Transfer Vehicle, 31st International Symposium of Space Technology and Science, ISTS paper 2017-b-02, 2017.
  • Shimada, A., Tanaka, Y., Ohkawa, Y., et al.: Effect of Atomic Oxygen Irradiation on Field Emission Cathodes in Low Earth Orbit, Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan, 12, ists29 (2014), pp. Pb_59-Pb_64.
  • Ohkawa, Y., Matsumoto, K., et al.: Performance Improvement of a Carbon Nanotube Field Emission Cathode, 63rd International Astronautical Congress, Naples, Italy, IAC-12-C4.4.11, 2012.
  • Okawa, Y., Kitamura, S., Kawamoto, S., Iseki, Y., Hashimoto, K., and Noda, E.:An experimental study on carbon nanotube cathodes for electrodynamic tether propulsion, Acta Astronautica, 61/11-12, pp. 989-994, 2007.


テザー・リール・放出機構

導電性のテザーとして、軽量、導電率のよいアルミワイヤなどで編んだ網状テザーを試作、評価しています。テザーは細く、長い形状のため、微小デブリにより切断されやすいという問題点があります。そこで、テザーを網状にして一部を弛ませることにより、一本が切断されてもテザーとしては切断されない冗長性を持たせています。このような網状テザーであれば、デブリを除去するまでの期間、切断されずに使用できると考えています。現在、軌道上でのテザー伸展特性および電流駆動特性の取得を目的とした要素技術実証実験を計画しています。



導電性テザー
導電性テザー
(リールに巻いた状態)
導電性テザー(伸ばした状態)
導電性テザー(伸ばした状態)


内巻きスプールリールからのテザーの伸展実験
内巻きスプールリールからのテザーの伸展実験


参考文献

  • Kawamoto, S., Ohkawa, Y., et al.: A Flight Experiment of Electrodynamic Tether Using HTV toward the Realization of Debris Removal, Transactions of JSASS, Aerospace Technology Japan, Vol.14, No. ists30, 2016.
  • Iki,K., Kawamoto, S., et al.: Expected On-orbit Tether Deployment Dynamics on the KITE Mission, Transactions of JSASS, Aerospace Technology Japan, Vol.14, No. ists30, 2016.
  • Iki, K., Kawamoto, S., and Morino Y: NUMERICAL SIMULATIONS OF AN ELECTRODYNAMIC TETHER DEPLOYMENT FROM A SPOOL-TYPE REEL USIMG THRUSTERS, IAA-AAS-DyCoSS 1-10-1, 2012.