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長寿命波動歯車装置の寿命メカニズム検証

人工衛星には太陽電池パドルや観測センサなどの回転部を持つ機器が搭載されています。回転部はモーター、軸受、歯車(減速機)などの機械要素から構成されています。

最近の宇宙機器では、各種駆動機構の減速機として、コンパクトで高減速比が得られるという特長を持つ波動歯車装置が広く使用されています。本テーマでは、波動歯車装置の回転寿命を延ばす(摩耗量を減らす)ための技術について研究を行っており、 また、将来宇宙で使いやすいように、真空中での伝達効率や寿命などの試験データの取得も進めています。将来的には、本研究で得られた長寿命波動歯車装置を宇宙で使えるようにして、人工衛星全体の長寿命化に貢献していきたいと考えています。

研究の概要

図1 波動歯車装置の構造

波動歯車装置は、図1に示すように、楕円状玉軸受のウェーブジェネレータ、薄肉カップで外歯が刻まれたフレクスプライン、ならびに剛体リングで内歯が刻まれたサーキュラースプラインの3つの部品から構成されます。 波動歯車装置は、ウェーブジェネレータの回転によりフレクスプラインとサーキュラースプラインの歯のかみ合い位置を変えて、この動きを出力として取り出すというユニークな動作原理を持っています。

JAXAでは、真空用グリースで潤滑された宇宙用波動歯車装置を開発しました。開発試験の中で行われた宇宙環境を模擬した真空中での作動試験において、ウェーブジェネレータ外周とフレクスプライン内周で厳しい摩耗が生じ、 大気中での作動に比べて短時間で寿命に至ることが分かりました。

波動歯車装置は真空中でしゅう動部の摩耗が多く、回転駆動機構を構成するモーター、軸受、歯車の中で最も寿命が短いという課題があります。人工衛星を宇宙で長く使用するためには、回転駆動機構の長寿命化、すなわち波動歯車装置の長寿命化が必須です。 本研究では、グリースで潤滑された波動歯車装置に浸炭とショットピーニングという2つの表面処理を施し、長寿命化を図りました。 これまでに、図2に示す試験装置で波動歯車装置の寿命試験を行い、表面処理品は従来の表面処理されていない波動歯車装置の約3倍の寿命を有することが分かりました。

図2 波動歯車装置 寿命試験装置

研究成果(より詳細な研究内容)

波動歯車装置のフレクスプラインとサーキュラースプラインに下記の表面処理を適用し、真空中、グリース潤滑下で寿命試験を行いました。

  • 浸炭 ⇒ 表面に炭素を侵入させ硬化させる
  • ショットピーニング(二段階) ⇒ 表面に粒子を衝突させて疲労強度を高める、油溜りとなるディンプルを形成する

図3、4はそれぞれ表面処理なしの場合とありの場合における波動歯車装置の寿命試験結果で、回転回数と入力トルク(摩擦の大きさ)の関係を示しています。図3の表面処理なしの供試体では出力回転回数がおよそ35,000回転で摩擦が大きくなり、 表面の摩耗により寿命に到達してしまいました。一方、表面処理ありの供試体では低摩擦を維持したまま100,000回転以上動作しました。また、試験後に供試体を観察したところ、ほとんど摩耗していないことが分かりました。 この結果は、表面処理が波動歯車装置の低摩擦・低摩耗の維持、すなわち長寿命化に効果的であることを示しています。

図3 寿命試験結果(表面処理なし)
図4 寿命試験結果(表面処理あり)

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