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極低温用渦電流ダンパ

JAXA宇宙科学研究所において、SPICA(Space Infrared Telescope for Cosmology and Astrophysics)という次世代赤外天文衛星が検討されています。SPICAでは、3m級の大口径望遠鏡を6K(-267℃)まで冷却する設計となっています。 一方、人工衛星本体(バス部)は常温付近なので、望遠鏡とバス部の断熱が大きな課題となっています。一つの方法として、望遠鏡とバス部を熱伝導率の低いバネで繋ぐ分離機構が提案されています。 第二研究ユニットでは、この分離機構に適用するダンパとして渦電流ダンパに着目し、適用可能性について検討を行いました。

研究の概要

原理
渦電流ダンパの動作原理

渦電流ダンパは、1850年代にフランスのフーコーによって発明された非常に古い技術です。

右の図で、磁石で発生した磁束は、磁極を通って導体板を貫通しています。導体が図中矢印の方向に運動すると、導体中にはフレミングの右手の法則に従って渦電流が発生します。 そして、この渦電流は磁束と作用し、フレミングの左手の法則に従って力を発生します。すなわち運動とは逆方向に電磁力が発生し、その力の大きさは導体の速度に比例します。

低温での特性

渦電流ダンパの減衰力は、導体板の電気伝導度に比例します。そして、一般に金属の電気伝導度は低温になると向上します。つまり、渦電流ダンパの減衰力は低温になると増加するという、低温での使用に適した特性を持つことが分かります。 SPICA搭載時の環境温度は30K(-243℃)と想定されていますので、導体板に比較的純度の高いアルミを使用すると電気伝導度は常温の10倍以上になります。

以上の温度特性も考慮して渦電流ダンパを設計し試作したところ、計算上SPICAの要求仕様を満たすことができました。

試作した渦電流ダンパ

研究成果(より詳細な研究内容)

低温下での減衰力測定

低温で渦電流ダンパの減衰力が増加することを確認するために、渦電流ダンパを試作し(試作1号)、常温と低温(-145℃)の減衰力を比較しました。低温では、正味減衰力が4.4倍向上しました。

渦電流ダンパの減衰力の温度特性
SPICA適用を目指した設計

SPICAで必要とされるズペックを仮に設定し、このスペックを満たす渦電流ダンパを設計、試作しました(試作2号)。試験の結果、常温でスペックの1/7.5倍の減衰力が得られました。 この測定値からSPICAの温度環境での減衰力を類推すると、スペックを満たすことが分かりました。

渦電流ダンパの減衰力の測定結果(左)ダンパ無、(右)ダンパ有

参考文献

  • 安田,内田:極低温用渦電流ダンパ,第58回宇宙科学技術連合講演会, 1G14, 2014.

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