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低毒性推進薬を用いたパルススラスタ PulCheR(プリキュア)

現在、人工衛星等に使用されている推進システムは、有毒性のヒドラジン系推進薬を高圧に加圧した状態でタンクに貯蔵してスラスタ(エンジン)に供給しており、その推薬毒性や高い圧力が作業者への危険性や作業コストを増大させています。

そこで本プロジェクトでは、毒性の低い推薬を低い圧力でタンクに貯蔵した状態でも作動が可能なパルス作動型のスラスタを開発し、「低毒」・「低圧」な推進システムを目指しています。

研究の概要

現在、人工衛星等に使用されている推進システムでは、推進薬としてヒドラジン燃料が使用されていますが、ヒドラジンは毒性が高いことから取扱いの際はスケープスーツ(空気供給型防護服)を着用しており、作業性が悪化しています。 さらに近年では特に欧州でヒドラジンの使用が規制されつつあり問題となっています。また、それらの推進薬は高い圧力をかけてタンクに貯蔵され、その圧力でエンジンに供給され高圧燃焼しているため、頑丈で重いタンクが必要となる他、 高圧ガス保安法の特別な申請も必要となってきます。

そこで本プロジェクトでは、より毒性の低い推進薬を用い、それを低い圧力で貯蔵・供給しても作動可能なパルス作動型のエンジンを開発し、「低毒」で「低圧」な推進システムを目指しています。

ミイデラゴミムシが
高温ガスを噴射するところ

このパルス作動型のエンジンは、ミイデラゴミムシ(へっぴり虫)がおしりから敵に向かって高温のガスをパルス的に噴射する習性からアイデアを得ているところが特徴であり、1秒間に10~30回程度の間隔でパルス的に燃焼させガスを噴射します。

なお本プロジェクト名である「PulCheR」は “Pulsed Chemical Rocket with High Performance Propellant” の頭文字からとったもので、ラテン語で「美しい」という意味をもつ単語でもあります。日本語では「プリキュア」と呼んでいます。

また、本プロジェクトはJAXAを含め世界8カ国9企業が参加する国際プロジェクトであり、欧州のFP7プログラムという研究の枠組みから資金を得て活動をしています。

プロジェクトマスコット
プロジェクト参加企業

研究成果(より詳細な研究内容)

エンジンの原理

推進薬はタンクに低圧(0.5~1MPa程度)で貯蔵され、高速作動の電磁弁の開閉によって1パルス分の推進薬が燃焼室に供給されます。燃焼室では触媒等により着火し燃焼しますが、その先のノズルの径を比較的小さくしガスが流出しにくくしておけば、燃焼室はほぼ密室状態とみなせるため、そこで燃焼反応が起きれば圧力はパルス的に急上昇することになり、それによって推力が発生します。これにより、推進薬は低圧で貯蔵したまま、燃焼室では高い圧力を生み出すことが可能となります。

エンジン系統図
燃焼試験用エンジン
推進薬

1液式の場合は高濃度過酸化水素を使用し、触媒と反応させることにより自己分解反応を起こし高温のガスが発生します。

2液式の場合は、酸化剤として高濃度過酸化水素、燃料としてプロピンを使用することで、1液よりも高い性能を達成することができます。

どちらも、現在使用されているヒドラジン推進薬に比べ毒性が低いのが特徴です。

開発状況

各参加企業が分担して各要素の検討や設計・試作を実施しています。主要な要素の開発状況を以下にまとめます。最終的にこれらを統合して燃焼試験を実施し、エンジンの実現性を実証する予定となっています。

要素 開発状況
タンク ダイヤフラム型のタンクを選定。過酸化水素との材料適合性が課題。
バルブ 既存の宇宙用バルブから選定。
インジェクタ 試作品の噴射試験を実施し、噴射特性等を取得中。
推進薬 98%過酸化水素を製造。プロピンとの着火特性について試験実施中。
着火用触媒 検討の結果、アルミナ担体の白金触媒を選定。燃焼試験により過酸化水素との反応性を確認。
燃焼室材料 トレードオフの結果、carbon fiber/silicon carbide(Cf/SiC)系の材料を選定し試作。