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固体着火剤を用いた燃焼試験に関する研究

国際宇宙ステーションで使用されている材料は、不燃物であることを試験を通じて確認された上で使用されています。この試験は可燃性試験(安全性実証試験の1つ)と呼ばれ、ケミカルイグナイタと呼ばれる着火剤を使用して、実際に試験サンプルを燃焼させる試験です。

2013年に新しい燃焼試験を規格化させるプロジェクトが立ち上げられ、本研究では可燃性試験で使用しているケミカルイグナイタの性能評価に焦点を当て、有人宇宙活動の安全性を高める研究です。

研究の概要

ケミカルイグナイタ外観

国際宇宙ステーション(以下、ISS)に使用される材料は、宇宙飛行士が宇宙で安全に活動することができるように、材料がISS内で火災事故を引き起こすことがないように、事前に地上にて試験を行い、 ISS内の使用環境での安全性が確認されたものだけが使用されています。

この安全性を確認するための試験は可燃性試験と呼ばれ、ISS内での材料使用環境に応じて、試験酸素濃度及び試験圧力を設定し、右の写真に示すケミカルイグナイタと呼ばれる着火剤から発生する火炎を材料に当て、 ①燃焼するかどうか、②燃焼した場合どの程度燃え広がるのか、③試験サンプルの近くに可燃物があった場合火炎が燃え移るのかを評価し、これらの判断項目をもとに、試験サンプルが火災事故を引き起こす恐れがあるかどうかを判断しています。

可燃性試験はこれまでは実際の使用環境での燃焼性が確認できていればよいという考えで可燃性試験が行われてきました。しかし、材料の燃焼性をより詳細に理解することを目的として、 特定の使用環境以外の条件下での材料の燃焼性もあわせて確認することが重要であると推奨されています。

ここで懸念となるのが、酸素濃度をはじめとする条件を変えた際にケミカルイグナイタの性能が大きく変わってしまう場合、材料の燃焼性の評価が困難になってしまうことです、異なる条件で試験を行い評価を行うためには、 事前に酸素濃度等の条件がケミカルイグナイタの性能にどのような影響を与えるかを評価する必要があります。

また、近年の微小重力環境を使用した燃焼研究では、地上よりもある特定の微小重力環境(ISS等)において、試験サンプルの燃焼性が大きく上昇してしまうことが明らかとなってきました。 地上での試験結果をもって、ISSでの安全を担保する要があり、現在の試験規格が安全を担保するに十分な試験であるかどうか、検証する必要があります。

以上の背景から、着火剤とであるケミカルイグナイタが試験に使用するのに十分な性能を有しているかに焦点を当てた試験を実施し、将来の有人宇宙活動の安全向上を目指しています。

研究成果(より詳細な研究内容)

酸素濃度15%における
ケミカルイグナイタ燃焼炎
酸素濃20.9%における
ケミカルイグナイタ燃焼炎

ケミカルイグナイタを異なる酸素濃度条件下で燃焼させ、燃焼中の重さの変化を測定し結果を、グラフに示します。グラフの縦軸は、ケミカルイグナイタが燃焼し始めた時の重さを100%とした時に、どの程度まで重さ厳守したのかを、 横軸はケミカルイグナイタが燃焼してからの経過時間を表しています。

この測定から、周囲の酸素濃度が低下するに従い、ケミカルイグナイタの重さの減少速度が緩やかになっていること、ある酸素濃度を境に重さの減少速度に大きな変化が表れていないことがわかります。

燃焼は、酸素と供給される燃料が反応することで生じます。ケミカルイグナイタからは、燃料となる燃焼ガスが発生し、これが周囲の酸素と反応することで燃焼が起こり、ケミカルイグナイタに対し熱が供給されることで、 燃焼ガス続けて発生するというサイクルを通じて燃焼が継続していきます。

ケミカルイグナイタの重さの減少は、火炎の勢いを表していると考えられ、低酸素濃度での評価は危険側の判断(材料が可燃物であっても、ケミカルイグナイタ燃焼炎からの熱の供給が弱いために、燃焼しない)となってしまう可能性があることを示しています。

低酸素濃度条件では、材料を加熱するための着火剤として使用するにあたり、十分な性能をケミカルイグナイタが有していないと考えられます。

ケミカルイグナイタの重量減少

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