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HTV搭載導電性テザー実証実験(KITE)の不具合に係る原因究明結果について

概要

JAXA研究開発部門では、将来の宇宙デブリ低減に向けた研究開発として「導電性テザー(EDT)を用いたデブリ除去」を進めています。この一環で要素技術の実証を目的とし、こうのとり6号機を実験プラットフォームとした「KITE」実験を実施しました。

実験では以下の3項目の確認を目的としていましたが、実験の開始後、エンドマスの放出が確認できず、①、②については達成できませんでした。なお③はほぼ実証できました。

  1. 機体から反地球方向にエンドマスを放出し、テザーを伸展
  2. 「こうのとり」のランデブセンサでエンドマスの運動を計測
  3. 電子源からの電子放出により、持続的にテザーに電流を流し、EDT実用化に必要な技術を実証

エンドマス不放出の不具合について原因究明を行った結果、KITE特有のミッション要求を満たすために設計製作したKITEの放出機構の構造特性によるものと判明しました。詳細を以下に示します。

KITE(Kounotori Integrated Tether Experiments)

実験の経過及び不具合事象

エンドマスの放出は、固定している4本の切り欠き付きボルト(以下「ボルト」)を切断した後、放出機構を動作させ、ばねの力で押し出す仕組みで行います。ボルト切断は、ボルトに取り付けた形状記憶合金を加熱し、熱膨張によってボルトを引っ張り、 張力で切り欠き部を切断することにより行います。(図1)

図1 エンドマス 保持・放出機構(断面図)
図1 エンドマス 保持・放出機構(断面図)

2017年1月28日(日本時間、以下同じ)、4本のボルトの切断を開始しました。No.3のボルトのみ、複数回の切断指令に対しても「切断」を示さない状態が発生しましたが、数分後に「切断」を示す信号(のちに誤信号と判明)が得られたため、実験を続行しました。 1月29日、放出指令を送信しましたが、エンドマスは放出できませんでした。

その後、対策運用として、2月5日の実験終了までの間、「こうのとり」本体の推進系を用いた振動の付加や、再加熱等により、複数回の再放出を試みましたが、放出できませんでした。対策運用と並行して、電子源の電子放出機能確認を実施しました。

不具合事象に係る原因究明結果

故障の木解析(FTA)に基づいた原因究明の結果、エンドマスを固定する4本のボルトのうちの1本(No.3)が切断されなかったことにより、エンドマスの不放出に至ったと判断しました。(図2:4本のボルト部を加熱したのち、温度変化を解析したところ、 No.3だけが早く冷却され、切断前の状態に近かったことに基づき判断。)

図2 各ボルトの温度変化(加熱終了後の挙動)
図2 各ボルトの温度変化(加熱終了後の挙動)

No.3の不切断について原因究明を進めた結果、下記に示すKITE独自のものとして採用した構造設計に要因があったことを突き止めました。

(ア)KITE独自の構造は以下のとおりです。

  1. 「こうのとり」の主目的である宇宙ステーションへの補給運用が完了するまでエンドマスが安全に保持された状態にあることの把握、ならびに分離の確認を行う必要があり、ボルト切断時の倒れをスイッチにより検出する設計としました。 そのためボルトを通す穴の直径をボルトより約6mm大きくしました。
  2. エンドマスの放出角度の精度を高めるために、分離部を拘束性の高い楔形状の凹凸(コニカル)で噛み合せることとしました。

(イ)No.3ボルトでは、上記(ア)の設計により生じる以下①②の構造の変形が、ボルトの切断に必要な張力を生じさせるための形状記憶合金の伸びを吸収する方向に重なり、十分な力がこのボルトに伝わらず、切断しませんでした。(図3)

  1. ボルト穴が大きかったため、形状記憶合金の伸びによる荷重がかかった際に、挟んであったワッシャが穴にめり込む変形が生じました。
  2. コニカルの凹凸位置の誤差により、No.3のボルトでは噛み合わせ部で「片当たり」が生じ、隙間が設計時に想定したものより大きくなりました。さらに、コニカル部に荷重が加わった際に食い込みによる変形が生じました。

<正常分離時>

<今回の事象>

図3 エンドマス分離機構断面 概念図
図3 エンドマス分離機構断面 概念図

(ウ)形状記憶合金の伸び1mmに対して、設計時点では、想定外の変形に対する設計余裕を0.16mm見込んでいました。しかしながら、各部材の変形量を試験及び解析から詳細に分析したところ、 複数の条件が重なると、この設計余裕量を僅かに超える変形が生じることが判明し、十分な張力をボルトに伝えることができず切断に至らなかったと判断しました。

今後の対策

設計上の問題点を進行中の各プロジェクトに水平展開し、同様の不具合が起きないことを確認しています。また、新規技術実証を中心とした体制では、既存技術を採用した箇所のリスク対策を網羅的には評価できず、適切な設計が出来なかった反省から、 軌道上実証研究や部門内プロジェクトを確実に進めるためのガイドラインを制定し、計画当初からフェーズごとにピアレビューを行う専門家を体制に含める等、より着実な開発を行う体制を構築することとしました。

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