研究紹介

光衛星通信技術の研究

地球観測衛星からの取得データ伝送速度の向上、データ量の増大を目的として、光データ中継システム(JDRS*)の開発が始まっています。

本研究は、多様なユーザが光データ中継サービスを利用可能とし、観測衛星等の低軌道衛星の意義価値向上を実現するため、光通信機器の小型・軽量化を目指すものです。

ユーザ伝送レートをJDRSの1.8Gbpsの4倍以上に高速化する高効率・高出力光増幅器、さらに将来的には、宇宙探査においてデータ伝送量の向上(月探査データの伝送時には700Mbps以上)の実現を目指しています。 また、本技術が、将来の商用通信衛星での超高速光通信用に活用されることも目指しています。

*JDRS(Japanese Data Relay System):光データ中継システム

研究の意義価値

宇宙インフラとしての高速データ伝送技術を獲得することで、観測衛星等の低軌道衛星の意義価値を向上させるとともに、光衛星通信にかかる産業競争力を強化します。また、はやぶさ(小惑星)やかぐや(月)のような探査衛星においては、 より多くの画像・動画を得ることで、これまで知らなかった宇宙の姿を知ることにつながります。

研究の目標

本研究では、次の目標を設定し、研究を進めています。

  • 将来型の光データ中継システム(JDRS)において、衛星の負担軽減の実現
  • ユーザ伝送レートを4倍以上に高速化するための、高効率・高出力光増幅器や高感度受信技術の実現
  • 国際標準化活動において我が国の技術を国際技術標準とすることによる、産業競争力の強化

研究の概要

宇宙/衛星での光通信とは?

現在、衛星と地上のアンテナとの通信は電波で行っています。

光衛星通信は、衛星との通信を光(無線)で行うもので、まずは静止衛星と地球観測衛星の間の通信、さらに静止衛星と航空機との通信等の実現を目指しています。

(当面は、静止衛星と地上の間は電波で通信します。雲があると光では通信ができないからです。光での衛星-地上の通信の研究も国内外で進められています。)

何のために?

電波は周波数によりその使い方が定められ、また干渉を避けるため、使用にあたって様々な制約が付きます。

さらに、データ量の増大に対して使用可能な帯域が限られる(20GHz帯で1.5GHz)ため、通信速度の高速化が難しくなります。

一方、光は電波と比べて桁違いに広い帯域(波長1.5μ帯で、10THz)を有し、また非常に絞ったビームを使用するため、干渉や傍受の恐れがありません。将来の宇宙での高速大容量通信の実現には、光の活用が不可欠です。

どうして研究が必要なの?

非常に絞ったビームを使用することから、通信相手に正確に光を届けるために高精度な指向技術(捕捉追尾技術)と駆動機構・光学系の技術が必要です。次に、45,000kmの距離での高速通信のために高感度な受信技術と、高出力な送信技術が必要です。

いずれも、光衛星通信実現のために、新たに実現する必要がありました。

研究成果(より詳細な研究内容)

「きらり」(OICETS、2005年打上げ)で確立された高精度捕捉追尾技術・高精度光学系技術の実績を踏まえ、光衛星通信の高速化・小型化を実現するため、以下の研究を行っています。

システム研究

変復調速度2.5Gbps(内、ユーザデータ領域は1.8Gbps)を可能とする、かつ宇宙用として実現可能な光データ中継システムの構築方法を明確にし、さらなる高速化・小型化のための研究を継続しています。
(参考:発表論文1)

静止衛星-低軌道衛星間の45,000km(地球の円周より長い!)を伝搬し、かつ2.5Gbpsの通信速度を小型の光通信ターミナルで達成するために、以下の試作研究を行っています。

高出力光増幅器の研究[継続中]
  1. 宇宙機器に必須な放射線耐性を、地上品よりも大幅に高める研究を大学と共同で行っています。
    宇宙光通信に用いる光増幅器(EDFA)の光増幅部であるEDFは特に放射線に弱いため、EDFに耐放射線性を付与する試作研究を大学及びファイバーメーカーと実施しています。 特定の組成であれば、一般的な工程でEDFを製造し、かつ、良好な耐放射線性を実現できることを突き止めました。
    (参考:発表論文2)
  2. 光増幅器そのものの試作として、高効率動作が期待できるダブルパス型EYDFAを試作し、この形式では世界最高の7W出力を達成しました。 (参考:発表論文3)
試作したダブルパス型EYDFA(内部写真)
光地上局運用技術

将来の月・惑星等の宇宙探査分野でも、電波通信からの伝送データ量を桁上がりで増大させるため、光通信の使用が必要です。探査機等から地上への光通信では、地上の大型光学望遠鏡で探査機からの光を受信します。 この際、国際協力により、雲が少なく大気が安定している等、探査機との光通信に適した、複数の地理的に遠く離れた地球上の場所に光地上局を置き、受信に最適な光地上局で受信を行うことが必要です。 また、光地上局から探査機などへレーザ送信を行うため、航空機等への安全確保として、レーザを航空機などに当てない仕組みを光地上局に実装する必要があります。
そこで我々は、以下の2つの研究を行っています。

① 雲回避型NW制御技術[継続中]

  1. 地球上に分散配置された、複数の光地上局の中から、探査機と光地上局間の光直接通信を妨げる雲の影響が最も小さい光地上局を、雲の観測と判別により選定し、地上ネットワークを制御することにより、 雲の影響を受けにくい光直接通信を成立させる必要があります。大学と共同で、雲観測・判別技術の確立、各光地上局における雲観測・判別結果を収集し最適な光地上局を選定する地上ネットワーク制御技術の確立に向けた研究を行っています。 (参考:発表論文4)

② 航空安全技術、捕捉追尾と大気補償技術[継続中]

  1. まず航空安全技術の確立のため、さらに、大気中を伝搬する光の大気揺らぎの影響下で光エネルギーの損失を極力低減するための捕捉追尾と大気揺らぎ補償技術の確立のため、研究用光地上局(写真)を活用し、 捕捉追尾と大気補償技術による光直接通信の品質を安定化させる研究を進めています。(参考:発表論文5)
60cm光地上局(固定)
30cm光地上局(可搬・写真手前)と航空安全用レーダー
高感度受信部の研究[実験評価研究完了]

地上の光ファイバ通信システムに用いられている復調技術、レーザ技術を活用し、衛星の運動に伴い発生するドップラーシフトの補正が可能な、高感度受信部の試作を行っています。

FY26までに、復調部を構成する、ドップラーシフト補正が可能な局発光源の試作や、受光部の試作を行い、復調部全体の試作、必要な機能が実現できることを実験的に評価しました。 (参考:発表論文6)

精捕捉追尾機構の試作[完了]

捕捉追尾に係る装置の小型化のため、磁気駆動2軸精捕捉追尾機構を試作し、FY25までに衛星搭載を想定した振動衝撃試験に耐えることを確認しました。(参考:発表論文7)

発表論文等

  1. 荒木智宏, 市川愉, 谷島正信, ”光データ中継システムの検討”, 電子情報通信学会技術研究報告, 2014-37, 2014.
  2. Kobayashi Y. et al., “Effects of Ge Co-Doping on P-Related Radiation-Induced Absorption in Er/Yb-Doped Optical Fibers for space application”, IEEE Journal of Lightwave Technologies, Volume:36, Issue:13, PP2723-2729, 2018.
  3. Araki T., et al., “Experimental results of high power double-pass, double clad EYDFA”, Proc. of ICSO 2018, 7d-2, 2018.
  4. Mukai T., et al., “Research and development approach to realize flexible optical ground network operations for effective data download from space to ground with avoidance function of cloud blockings”, Proceedings of 24th AIAA ISCCC, 2018.
  5. 向井達也, 荒木智宏, “JAXA研究開発用光地上局システム”, 第62回宇宙科学連合講演会, 1G13, 2018.
  6. 伊東俊治, 他, “衛星間,衛星-航空機間通信へのデジタルコヒーレント光通信技術の適用”, 信学技報, SANE2015-16, 2015.
  7. Shimizu S., “Development of Fine Pointing Mechanism for Optical Inter-Satellite Communication”, Proceedings of ICSOS, 2014 P-5, 2014.