研究紹介

防御

秒速数kmという超高速で物体が衝突すると超高圧状態になり、物体は相変化して固体・液体・気体が混在した状態になります。従って、超高速衝突による破壊現象は、一般的に地上で観察されるような衝突破壊現象とは大きく異なります。超高速で飛翔する物体(飛翔体)がターゲットに衝突すると,飛翔体は相変化を伴いながら細かく破砕されます。特にターゲットが薄板の場合は、飛翔体とターゲットの一部がデブリ雲と呼ばれる破片群を形成することが知られています。貫通された薄板のターゲットには飛翔体より少し大きな穴が生じるだけで、ほとんど変形しません。このように、超高速衝突が引き起こす損傷は低速衝突とは大きく異なるので、デブリ衝突による被害を知るためには地上での超高速衝突試験が必要になります。

JAXA相模原キャンパスに、超高速衝突試験を実施できる二段式軽ガス銃という装置があります。宇宙科学研究所や様々な大学と協力して超高速衝突試験を実施し、デブリ衝突について研究しています。



人工衛星のデブリ衝突被害に関する調査

ハニカムサンドイッチパネルへの超高速衝突試験
ハニカムサンドイッチパネルへの
超高速衝突試験

特にデブリが密集している低高度軌道では、微小なデブリが人工衛星に衝突する頻度が高まっています。しかし、ほとんどの無人宇宙機にはデブリ防護シールドが搭載されておらず、微小デブリ衝突による被害が懸念されています。そこで衛星構造要素へ衝突試験を実施し、人工衛星に直径1mm以下の微小デブリが衝突した時にどのような損傷を引き起こすのかを調査しています。


秒速10kmを実現する超高速射出装置の研究

低高度軌道でのデブリ衝突速度は、平均秒速10kmです。しかし、通常超高速衝突試験に使用される二段式軽ガス銃という装置では、秒速7km程度までしか模擬デブリ(飛翔体)を加速することができません。秒速10kmで飛翔体を射出する技術の一つに成形爆薬法があります。これは、火薬の爆轟を利用して金属ジェットを射出する技術です。成形爆薬をそのまま使用するとジェットが連続で射出されてしまうので、JAXAではデブリを模擬できる程度の長さにジェットを遮断するシステムを採用しています。成形爆薬で生じた金属ジェットは液体と固体が混ざり合った状態です。同じ質量・速度を持った固体がターゲットに衝突した場合とは、発生する損傷に違いが生じてしまいます。実際のデブリは固体なので、そのままでは正しくデブリ衝突による被害を評価することができません。そこで、液体と固体が混在しているジェットの衝突で生じたクレータと固体衝突で生じたクレータとを比較し、ジェット質量を固体質量に換算してデブリ衝突の評価に適用する手法を確立しました。

成形爆薬法で秒速10kmの安定したジェット射出を実現できるようになりました。現在、ジェットの引き起こす破壊現象を可視化するシステムを開発し、より実環境に近いデブリ衝突試験を実現する技術について研究しています。



成形爆薬(ジェット射出装置)の外観
成形爆薬(ジェット射出装置)の外観
X線で撮影したジェット(飛翔中)
X線で撮影したジェット(飛翔中)


成形爆薬ジェット(7km/sec)による損傷と固体衝突による損傷(数値計算)との比較
成形爆薬ジェット(7km/sec)による損傷と固体衝突による損傷(数値計算)との比較


複合材デブリ防御構造に関する研究

現在、国際宇宙ステーションに搭載されているデブリ防御構造は主にアルミでできています。これを複合材に置き換えて、デブリ防御構造を軽量化する研究をパドバ大学と共同で実施しています。デブリ防御構造は下の図に示すように二重壁構造になっているのが特徴です。デブリに衝突する側に薄板、宇宙飛行士が滞在する側に厚板が配置されており、両者は約100mm離れています。デブリはまず薄板に衝突するので、細かい破片に砕かれます。薄板と厚板の空間に破片群が拡散することで、デブリの運動エネルギが分散されます。厚板で分散した破片群を止めて、国際宇宙ステーションに滞在している宇宙飛行士の命を守ります。


国際宇宙ステーションに搭載されているデブリ防御構造
国際宇宙ステーションに搭載されているデブリ防御構造


JAXAでは、新しいデブリ防御構造の材料として炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastic)に着目しています。CFRPは軽量でかつ高剛性である点から、宇宙機の様々な部位に適用が拡大されている材料です。CFRP積層板に超高速衝突で物体が衝突すると、写真のように表層に大きな損傷が生じます。更に超音波非破壊検査装置でCFRP積層板を観察すると、板の内部にも損傷が生じることがわかりました。CFRP積層板の超高速衝突破壊を利用してデブリの衝突エネルギを吸収する、複合材デブリ防御構造について研究しています。


直径2.3mmのアルミ球が5km/secで衝突した時のCFRP積層板(厚さ2mm)
直径2.3mmのアルミ球が5km/secで衝突した時のCFRP積層板(厚さ2mm)

超音波非破壊検査装置で観察された上のCFRP積層板に生じた内部損傷の様子(赤色部分)
超音波非破壊検査装置で観察された上のCFRP積層板に生じた内部損傷の様子(赤色部分)


参考文献

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